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「噂」に真実は、誰も求めていない。
彼のこれまでの「噂」だって、星の数ほど女を泣かせて来たとか、来るもの拒まずで一夜限りの付き合いしかしないだとか、本当に酷いものばかりで。
そんな「噂」を信じた子からのアプローチを、ことごとく切り捨てて来た彼は、弁解するよりも身を持って潔白を証明してみせた。
だからか、ついには男が好きなんだと言う、奇想天外な「噂」まで出てしまったのだが…
艶やかな黒髪。
他を圧倒する切れ長の瞳の強さ。
弁舌爽やかな薄い唇からは、男らしい低い声。
広い肩幅、長身、仕事が出来て整ったルックス。
おまけに彼女が居ないとなれば、
「噂」の的になるのは必然だった。
「今回はヒデ君じゃないわよ」
あら、意外。
「へぇ、そりゃ嬉しいな」
笑みを浮かべた彼は、山瀬さんのビッグニュースを初めてマトモに聞く体勢を取った。
「なんと!
経理課からカップルが誕生したのよ」
「……は?」
おお!
久々に信ぴょう性のあるニュースっぽくて、聞き耳を立てる。
「誰と誰、が?」
「秋山課長と川崎さん。
さっき二人のデート現場に乗り込んで来た所なの」
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