☆ 聖人君子の噂 ☆

4/28
前へ
/143ページ
次へ
「噂」に真実は、誰も求めていない。 彼のこれまでの「噂」だって、星の数ほど女を泣かせて来たとか、来るもの拒まずで一夜限りの付き合いしかしないだとか、本当に酷いものばかりで。 そんな「噂」を信じた子からのアプローチを、ことごとく切り捨てて来た彼は、弁解するよりも身を持って潔白を証明してみせた。 だからか、ついには男が好きなんだと言う、奇想天外な「噂」まで出てしまったのだが… 艶やかな黒髪。 他を圧倒する切れ長の瞳の強さ。 弁舌爽やかな薄い唇からは、男らしい低い声。 広い肩幅、長身、仕事が出来て整ったルックス。 おまけに彼女が居ないとなれば、 「噂」の的になるのは必然だった。 「今回はヒデ君じゃないわよ」 あら、意外。 「へぇ、そりゃ嬉しいな」 笑みを浮かべた彼は、山瀬さんのビッグニュースを初めてマトモに聞く体勢を取った。 「なんと! 経理課からカップルが誕生したのよ」 「……は?」 おお! 久々に信ぴょう性のあるニュースっぽくて、聞き耳を立てる。 「誰と誰、が?」 「秋山課長と川崎さん。 さっき二人のデート現場に乗り込んで来た所なの」
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

639人が本棚に入れています
本棚に追加