☆ 聖人君子の噂 ☆

6/28
前へ
/143ページ
次へ
「……酷い顔してるわよ」 眉間に深く刻まれた三本線。 固く引き結ばれた唇。 「……飲み過ぎだ」 営業フロアに入って来るなり、不機嫌オーラを全身に纏ったお出ましに、たまらず声をかけた。 「飲み過ぎ? 昨日は先に帰ってたじゃない」 座敷の偵察から戻って来てすぐに、山瀬さんに捕まっていたはずだが…… 気付いたら、同期の誰よりも一番先に居なくなっていた。 さてはあの後、どっかで飲み直してたな。 「珍しいね。 二日酔いなら、コレ飲んだら?」 デスクの引き出しに常備している薬を取り出した。 「サンキュ、上田」 「どう致しまして」 向かいの席に座る彼から視線をPC画面に戻し、昨日の営業報告書の作成に取り掛かる。 「上田」 「ん?」 「お前、今日、外回りは?」 「ないよ」 「じゃあ、頼んでいいか?」 言って、束ねた紙をこちらに滑らせて来た。 「領収書。 俺、この後も外出予定だから、経理に寄っている暇がない」 あー、清算ね。 にしても、かなりの量だな。 「了解。 ついでだからいいよ」 昨日の「噂」の当人達を、観察するついでに。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

639人が本棚に入れています
本棚に追加