ドーム爺さん

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「ここは正しくアマチュア天文家と言ってさしあげましょう」  アユタは、少しずれたメガネを左手の中指で押し上げながら、なぜか大人びた言い方をした。  そんなことはどうでもいい。 「で、どのくらいオタクなの」  僕は話を戻したかった。 「えーと、もともとは先生。小学校じゃないよ。どっかの大学。そこで星のことや宇宙のことを研究してたらしいよ、でも専門は、コウガクケイでロケット関係。今は、学校テイネンで辞めて、天文は趣味らしい、星座の地図に載ってない星を見つけて名前を付けるのが趣味だって。それで何度か新聞にも載ったらしいよ」  アユタ、やけに詳しい。 「ほら、見て。あの山の上にチラッと銀色に光ってる坊主頭みたいなの、あれがドーム爺さんの家だよ。あのドームの中にスゲー望遠鏡があるんだって、だからドーム爺さん」  アユタの指す方向に目を向けると確かにキラッと銀色に光るドームのテッペンらしきものとピンク色のサクラの樹が見えた。ドーム型の屋根か? 「でね、今はそこに、孫の女の子と二人で住んでるらしいよ」  このネタ、恐らくアユタのばーちゃんからの情報だろう。アユタん家はいまどき珍しく大家族でおまけに長寿の家系だ。もうすぐ100歳になるひーばーちゃんを筆頭に10人家族。アユタ自身も四人姉弟の末っ子だ。一番上のお姉さんは高校2年生、二番目の姉さんは中学三年生、すぐ上の姉さんが僕らと同じ学校の六年生。  家はこの町で古くから続く旅館を家族でやっている。聞くところによると昔は旅籠と言っていたらしい。そのせいか、代々その旅館の女将を務めたひーばーちゃんや現在の大女将のばーちゃんは、この町のライフディクショナリーと呼ばれるほど色んな事を知っているのだ。とにかく町の幅広い情報が様々な角度から自然と集まる環境のようだ。おかげでアユタも僕やミウと同じ小学五年生にしては、町や町の大人の事情にも通じていた。けれども、僕の知りたいことはドーム爺さんの呼び名の由来や暮らしぶり、家族構成じゃない。 「それで、そのドーム爺さんが、僕の知りたい事を知ってるのか?」 「だって、ロケットの研究してて、しかも趣味が天文、自分家に天文台作ってる人っているか。広い日本、探せばいるだろうけど、めったには居ないと思うよ。そんな人はやっぱりそういう事詳しいんじゃない。たぶん、担任の工藤先生よりは詳しいと思うよ」
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