ドーム爺さん

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 比較の対象に工藤先生を引っ張り出すのはどうかと思ったけど、そこは子供。身近なエライ人の代表はやっぱり先生だよな。 「訪ねてみたら」  僕にはアユタの言葉が他人事のように聞こえてしまっていた。知らない人の家へ知らない人、しかも小学生が訪ねて行けるものだろうか? 『興味があったらやってみる』  父さんの声が聞こえた気がした。 「アタシも行く?」  ミウの声が聞こえた。こりゃ興味じゃなくて好奇心ってやつだな。  ここを右に折れると高台へ続く入り口があるはず、そこからドーム爺さん家までは一本道・・・、100メートルほど先に手を振りながら小躍りする影が見えた。しかも、ちょっとジャンプもしている。 「ここ、ここ」  ミウだ。面倒な奴が本当に着ていた。 「遅い!」  なんで、そんな言われようされるのか納得がいかない、約束したわけではない。が、ミウにはそんなことが通用しないのはわかっていた。  ミウと始めて会ったのは、僕の住んでいるマンションの真上の階の友田さん家が転勤で引っ越してしばらくたった日だった。そこへ越してきたのがミウの家族だった。両親と四歳年上のお姉ちゃんとミウの四人家族。ご丁寧に引っ越した日に真下の階の我が家に家族四人で引越しの挨拶に来た。 「ちょっとこっちに来て」  リビングでテレビを見ていた僕を玄関口から母さんが呼んだ。誰か訪ねてきたらしい気配があったが、僕はテレビのサッカー中継に集中していた。途中で目を離すのは、面白みを半減させるが、母さんに逆らう事を選択することは賢明ではないので(選択するほどの試合内容でもなかった)、念のため録画ボタンを押してから玄関に向かった。  開け放した玄関ドアの前に大柄な男の人とやせた女の人、その大人二人は母さんと父さんと同じぐらいの歳に見えた。二人の後ろに小学校高学年と思われる女の子、そしてよく見ると大柄な男の人の影に隠れるようにショートカットで瞳が大きな女の子がいた。背丈は僕ぐらい。ミウだった。 「今日、うちの階の上に引っ越してきた松山さん。お姉ちゃんは小学校6年生、ミウちゃんはあなたと同じ2年生だよ」  よろしくねと大人二人とお姉ちゃんがそろって会釈した。 「あしたの朝、一緒に行ってあげなさい」
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