約 束

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約 束

 土曜日の朝、キッチンから漂う甘く香ばしい匂いに目を覚ますと、母さんはクッキーを焼いていた。  おじさんには昨日の夕方僕が二人を代表して連絡を入れた。ミユは今日の訪問を昨日の下校時間まで迷っていたが、今回はアユタも必ず行くと言ったこともあって、結局一緒に行く事にした。  僕がおじさんに連絡すると言った時、連絡先を知ってるのと母さんから聞かれて一瞬ドキッとしたが、「アユタから連絡先は聞いた」と言っておじさんからもらったメモを見せた。母さんに電話を代わった時は、一昨日黙って行ったことがバレるんじゃないかと、二人の電話の話しに聞き耳を立てていたが、大人のシャコウジレイっていう感じの会話しかしていなかった。おじさんは一昨日の僕らの突然の訪問のことにはふれないでいてくれたらしい。母さんは、自分のスマートフォンの番号を伝えてから、 「それじゃあ、何卒よろしくお願いいたします」  と言いながら受話器を握ったままオジギをして電話を切った。  僕が電話をかけた時、おじさんは少し驚いていたようだったけどすぐにやさしい声で「車に気をつけていらっしゃい。待ってるよ」と応えてくれた。  早めの昼ごはんを済まして、母さんが焼いてくれたおじさんへの手土産代わりのクッキーの入った袋をもって、ミウを迎えに行った。ミウがよそ行きの格好だったんですこし驚いた。そして二人で待ち合わせ場所のアユタの家へ向かった。  アユタが旅館の玄関ロビーのソファーに腰かけているのが見えた。僕らに気が付いたアユタは開いた自動ドアから「行ってきまーす」と言いながら飛び出てきた。後からばーちゃんが追って来て「神原さんによろしくね、気をつけてね」と僕らに声をかけた。  最初の訪問から三日しかたっていないのに、ドームまでの道はすっかり春爛漫だった。この間来た時は緊張もあってか気づかなかった。こんなにサクラの樹が植わってたんだと周りを見回す余裕が今日はあった。始めてのアユタは陽気のよさもあって、ちょっとした遠足かピクニック気分の足取りだった。かえってミウは少し重い雰囲気で足を運んでいるように見えた。  玄関の前に着くとこの間と同じに僕がインターホンを押した。 「ハイ」直に返事が聞こえた。今日は、おじさんの声だった。 「こんちは」と僕はあいさつした。  今日はミウの割り込みは無かった。
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