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彼はどうやら、買い物に来ていたらしい。書店の前に停めていた自転車のかごに、バッグを放り込んでから。
「乗って」と穏やかに指示した。
いわゆる、ママチャリだ。
彼の後ろに座ると、広い背中で前が見えなくなって。そのことに、不思議と僕は安心感を覚えた。
「手、こっちに回して」
腰に掴まるように言われ、僕はほんの一瞬、戸惑った。
こんなに、信じて、すがって。
もしまた、それが壊れたら、僕は……?
「楓」
前を向いたまま発せられる彼の声に、はっと僕は顔を上げた。
「余計なことは、考えるな」
言葉自体は命令だが、その口調はまるで懇願するかのような、切ない響きに満ちていたので。
僕は彼の腰に、しがみつくようにぎゅっと手を回した。
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