イグニッション

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 夜の報道番組でも取り上げられてはいたが、ロケット工学の専門家とかサイエンスライターと呼ばれる人のインタビューがほんの少し流される程度の小さな扱いだった。インタビューに答える人たちの内容は総じて同様の意見だった。例えば、 「ロケットというものは、100万点を超える精密部品の集合体です。その上、それを緻密な制御プログラムで制御しながら飛ばすわけです。その全てが100%の仕上がりであるのは当たり前。それでも成功するとは限りません。打ち上げ直前になってやっとわかる些細な不具合で中止なんてことは日常茶飯事です。今回は新技術のEGGの搭載。ましてや有人飛行です。150%の仕上がりでもまだ絶対とはいえないでしょう。一度でも失敗が許されないことですので、JASAも念には念を入れると言うことじゃないですか」  なんて、どちらかと言うとJASAの対応を擁護する発言が多かったようだ。  僕は、いつのまにかすっかり当事者になっている自分に気が付いて笑ってしまってた。それでも、おじさんの訴えが間に合って良かったと安心していた。  高性能ダミーロボットの乗ったEGGを搭載したH30Vの打ち上げが成功し、EGGの宇宙ステーションへのドッキングも無事に成功した翌日、僕らはエレンのいる黒崎さんの家へおじさんの車に乗って向かっていた。車中でおじさんは、EGGの成功を素直に喜んではいたが、複雑な思いでいることは僕らと同じだった。  おそらくEGGの有人飛行は時間の問題だけで、近い将来に経験豊富な宇宙飛行士による有人飛行へと進むだろうとおじさんは説明してくれた。ただし、子どもをEGGに乗せるプロジェクトは、正式な発表こそされてないが、未定となった、事実上中止だろうとも教えてくれた。  それでも僕はまだ諦めてはいなかった。その気持ちを確かめるためにも僕はエレンと会う決心をしたんだ。  黒崎さんの家は、JASAタウンの先にある海辺の町にあった。僕らの町からは高速道路を使っても1時間程度はかかった。おじさんの車は高速を下りてからしばらく海辺の町の入り江にそって走った。NAVIを確認し、雑木林にすいこまれるように延びる一本の脇道に入っていった。やがて雑木林が途切れて視界が開いた。フロントガラスの向こうに海と一軒の白い洋風の平屋の建物が見えた。おじさんは車のスピードを緩め、その家の前でブレーキをゆっくりと踏んだ。
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