イグニッション

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 車の音が届いたのか、僕らが車から降りると黒崎さんが玄関のドアの前に立っていた。  黒崎さんは、おじさんと僕らを認めると「やあ」とだけ言って、家の中へと招き入れてくれた。EGGの発表の場にいた黒崎さんとはまるで別人のようで、随分やつれた顔をして僕らを迎えた。憔悴しきったっていうのはこう言う事なんだろう。  広いリビングにとおされると車椅子に乗った、エレンによく似たきれいな女の人が僕らを迎えてくれた。  僕の母さんよりは幾分年上に見えた女の人の肌は透きとおるように白く、それが返って精気をうすくしているように見えた。おじさんは、直ぐにその人にかけよって「久しぶり。最近、体調はどうなの」と話しかけた。 「今日は随分といいのよ」と答えながら、始めて訪れた場所のせいで緊張している僕らを見ると、車椅子を静かに寄せて来て、先にあいさつをしてくれた。 「こんにちは、今日はようこそいらっしゃいました。エレンの母です」  予想はできたが、やっぱり驚いた。あわてて僕らも一人づつ名前を言って、あいさつした。 「あなたがエレナね」  最後にあいさつしようとしたエレナの方を向いてエレンのお母さんが微笑んだ。そして手を伸ばしてエレナの肩を撫でた。まるで我が子を労わるように。  突然エレナがリビングから伸びる廊下に向かって歩き出した。一つのドアの前で立ち止まった。エレンのお母さんが目をふせながら小さく頷いたのを見て、僕らも後を追った。 「ココデス」  エレナは言ってから僕らの方を振り向いた。エレンとエレナのウィットを通じてのシンクロが始まっていた。 「ここにエレンがいるのね」  ミウがエレナに訊いた。 「ハイ」 「入りなさい」  後ろから黒崎さんの声がした。  僕は一応ノックをした。返事がないことはわかっていた。三秒ほど待ってから静かにドアを開けると、正面の大きな窓から静かな春の海が広がっていた。窓の外には白いペンキがきれいに塗られたデッキが光を反射して、いっそう白く輝いていた。  部屋の中心には、ベッドが見えた。エレンは静かに眠っていた。  部屋に入るなりミウが小さな声で歓声を上げた。 「すてき!」
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