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エレナの部屋は、やわらかなグリーンの壁紙に白を基調にしたアンティークっていうんだろうか趣味の良い机やソファー、ドレッサーなどの調度品が整然と並べられていた。まるで毎日使われいるような感じに見えた。ミウに限らず、女の子なら誰でも一度はあこがれるような部屋だろうなと思った。ただ、ベットの掛け布団の下から伸びている幾本かのチューブとその脇にある無機質な生体情報モニターの画面の表示だけが異質で、エレンがただ眠っているのではない事を僕らに冷たく語りかけていた。
そんなベッドに横たわるエレンを天蓋からさがる白いレースが窓から差し込む日に日に強くなる春の日差しをやわらげてやさしくエレンを包んでいた。
エレンは僕らより三歳は年上のはずだが、体躯は五年生の僕らとあまり変らないように思えた。肌の色は母親ゆずりか白く透きとおっていた。ただ、みずみずしさと上等の桃のような頬が母親とは違っていた。見れば見るほど穏やかに眠っているようにしか見えなかった。
僕は、なぜか恥ずかしくなって、ベッドから少し離れたところでエレンを見つめた。アユタも僕の肩から覗いていた。
すると、ミユが天蓋のレースをそっとめくり、エレンの顔に自分の顔を近づけ、
「エレン。始めまして。私はミウです」
「会いたかった」
やさしく話しかけた。
「どう」ミウがエレナに訊いた。
僕らは、子どもなりにエレンのことを真剣に考えた。その結論出すためにはどうしてもエレンに会う必要があった。おじさんがEGGの真実を確かめたかったの同じように。
僕がおじさんの話しにのってJASAタウンに行こうと決めたのは、もともと興味のあったEGGの真実を確かめるということに何か使命に似たものを感じたというのもあったけど、半面、不思議な体験をした美少女に直接会ってみたいという軽薄な五年生の男子的な興味があったのも事実だ。そんな僕が、JASAタウンで目の当たりにした真実は、エレンがいまだ眠ったままだという、知りたくもないことだった。あの時の僕の涙は、僕らと同じ年の頃から未だ二年以上も眠り続けているエレンという女の子が何処かに実在することの悲劇を肌に感じたことではなく、事の重大さを全然理解っていなかったことに対する、僕の幼稚さや、悔しさ、後ろめたさが、ない交ぜになってこぼれたのかも知れない。
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