最終話 イグニッション

イグニッション

　次ぎの朝、教室に入るなり僕が声をかけるでもないのに、ミウとアユタが寄ってきた。あいさつもそこそこに二人とも思いつめた顔をして、僕を見つめた。僕も二人を見つめ返した。
「ドームおじさんに会いに行こう」
　二人は僕の言葉を覚悟していたようで、アユタが直ぐに訊いてきた。
「いつ行く」
　僕が返答に少し迷っているとミウが言い切った。
「今日に決まってるでしょ！」

　ランドセルを背負ったままの僕らを見ておじさんは、玄関のドアノブを握ったまま固まっていた。昨日の今日で僕らが訪ねて来るとは思ってもいなかったようだった。僕は驚いているおじさんの口が開くのを待たずに言い放った。
「エレンに会わせてください」
「お願いします」ミウとアユタもと深々と腰を折った。あまりにも頭を下げすぎてカブセのフックがはずれていたアユタのランドセルから、教科書やノートや筆箱がアユタの頭の上をすべって落ちた。
「わかった。会いに行こう。約束するよ。もうウソはつかない」
　僕らの決意が通じたのか、おじさんは理由を尋ねることもなく簡潔に応えてくれた。訪ねる日を後で必ず連絡すると付け加えた。

　その日の夕方だった、つけっぱなしのテレビに緊急速報のテロップが画面の上部に流れた。
『ＪＡＳＡ、ＥＧＧによる初の有人飛行をダミーロボットによるテスト飛行に変更』
　僕は二度目のテロップが表示されるのを待ってからグラスをかけてＪＡＳＡのホームページにアクセスした。
　そこには重要なお知らせと題して発表されていた。
『○月×日に打ち上げを予定しておりますＨ３０Ｖロケットに搭載するＥＧＧ（卵殻型生命維持管理システム）による有人飛行を急きょ変更し、高性能ダミーロボットによるテスト飛行といたします。
　なお、これにより当初予定しておりました「子ども、宇宙ステーション日本ブースへのご招待」は、暫時遅延が発生することとなります。後日、改めて新たなスケジュールをお知らせいたします。すでにご応募された皆さまに対しまして、ここに深くお詫び申し上げますととともにご理解いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。』
　しかし、何処を探してもその理由は記されてはいなかった。