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「…………」
なにゆえ学校に行くのか。
そんな議論にも発展しないくだらない議題を、通り慣れた通学路を一人歩きながら脳内で展開する男子高校生。
彼は学校に向かっている途中である。しかし時間は午前九時を回っている。そう、彼は遅刻していた。
今から全力疾走を行なっても、担任に説教されるのは目に見えた。
だから彼は、半ば諦めた感じで歩いていた。
「(つーか、目覚ましかけたはずなのに、なんで寝ちゃうかな。昨晩は早く寝たはずなのに)」
二度寝は恐ろしい。と男子高校生はぼやいた。
ここまで、彼のことを男子高校生と言っているが、彼にも名前はある。
彼の名前は『住吉弥勒(すみよしみろく)』。
年齢は十五歳、所属クラスは一年三組、趣味は漫画鑑賞、帰宅部のエース等々、
そこらへんによく見かけるような、普通の男子高校生である。
しかし彼の普通は、ここで終わることとなった。
「……?」
なんとなく目を落とした。
何気なく目線を地面に向けただけだった。
その時、弥勒の視界に、あるものが映った。
一枚のカードだ。大きさはトランプと同じくらい。
「なんだこれ?」
何気なく、そのカードを拾い上げる。
ちょっとした好奇心だ。
カードが表になっていた面は、どうやらカードの裏面だったようで、絵柄が一切ない紫一色だった。
くるりと裏返すと、 旅人の男と犬の絵が描かれ、絵柄の左上端には、「0」の番号が書かれていた。
「トランプ、にしては絵柄が書かれてるし……」
勿論弥勒は、カードといえばトレーディングまたはトランプのカードにしかわからず、これがとある別のカードであるということを知らない。
「……まぁいいや、捨てるのもなんか勿体無いし、とりあえず持っておこう」
捨てるという選択を選ばず、何故か持っておくという選択をし、
カードを内ポケットに入れた。
何故勿体無いと思ったのか、読者はわずかに疑問を感じだだろう。
しかし弥勒は、何気ないものに対しても、思い入れがつきやすい性格である。
小学校の頃に使用した鉛筆も、未だに机の引き出しに置かれているのは、親もあまり知られていない。
「……ていうか、道草してる場合じゃないな」
ゆっくり歩くのはダメだろうと感じ、今度は足早に学校に向かって行った。
「…………」
物陰に、誰が潜んでいたのも知らずに。
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