玉勝間

13/71
前へ
/79ページ
次へ
 軽くにらんだけど賀陽さんは平気な顔をしてる。  私はため息をつき、自分のスマホを取り出して番号を交換した。 「それから、これ渡しとくね。僕の名刺。警察でこれを見せたら、僕のとこにすぐ連絡来るからね。でも悪用しちゃ駄目だよ」  渡された名刺を見て慌てた。  警視庁公安部外事九課課長、警視正、賀陽霧人。 「きりひとさん?」 「うん」 「警視正って、かなり偉いですよね」  私の驚いた顔を見て、賀陽さんは少し嬉しそうだ。 「大したことないよ」    照れ笑いをする賀陽さん。  意外と可愛いな、このおじさん。  賀陽さんとはそこで別れ、私は自宅へ向かった。  何も無い多摩川から、ビルが立ち並ぶ市街地に戻る。  軽めのタイムトラベルみたいだ。  太陽の色が変わり、街並みをオレンジ色に照らしてる。  私は、ゆっくりとペダルを漕ぎ、街の風景を眺める。  友達と笑い合う学生達、手をつないでる母子、レストランで食事をする家族。  私の知らない色んな人達のくらしが、垣間見える。  薄暮の中、一人で自転車を漕ぐ私。  なんだか寂しくて惨めな気分になる。  予知夢を確かめたからって私にできることは何もない。  婆ちゃんが生きてれば、相談できるんだけど。  婆ちゃん以外に話せる人なんていない。  両親だって信じないんだから当たり前だ。  きっとこの先も、何もかも打ち明けられるような人なんて現れないと思う。  妙な力を持った凶暴女なんか嫌だもんね。  ましてや好きになってくれる人なんてありえない。  私はずっと一人だ。  中年になっても、婆さんになっても……。  ちょっと泣けた。  紅葉丘高校では、もうすぐ球技大会が開催される。  一日の終わりのホームルームの時間。  誰が、どの種目に出るか決めることになった。  女子はソフトボール、バレー。  男子はバスケット、サッカー。  みんな必ずどれか一つには出なきゃならない。  私はクラス活動に期待されてないから、人数の足りないところにもぐり込めば良い。    昨日、多摩川から帰ったあとも、予知夢のことが頭から離れなかった。  考えすぎて眠れなかったんで、今日は寝不足。  授業時間中、何度か眠りかけたけど、一つ目の化物の姿が浮かんで飛び起きる。  ネットで検索かけたし、昼休みに図書館で調べもした。  たけど、あんな生物出てこない。  あれは一体何?
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加