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軽くにらんだけど賀陽さんは平気な顔をしてる。
私はため息をつき、自分のスマホを取り出して番号を交換した。
「それから、これ渡しとくね。僕の名刺。警察でこれを見せたら、僕のとこにすぐ連絡来るからね。でも悪用しちゃ駄目だよ」
渡された名刺を見て慌てた。
警視庁公安部外事九課課長、警視正、賀陽霧人。
「きりひとさん?」
「うん」
「警視正って、かなり偉いですよね」
私の驚いた顔を見て、賀陽さんは少し嬉しそうだ。
「大したことないよ」
照れ笑いをする賀陽さん。
意外と可愛いな、このおじさん。
賀陽さんとはそこで別れ、私は自宅へ向かった。
何も無い多摩川から、ビルが立ち並ぶ市街地に戻る。
軽めのタイムトラベルみたいだ。
太陽の色が変わり、街並みをオレンジ色に照らしてる。
私は、ゆっくりとペダルを漕ぎ、街の風景を眺める。
友達と笑い合う学生達、手をつないでる母子、レストランで食事をする家族。
私の知らない色んな人達のくらしが、垣間見える。
薄暮の中、一人で自転車を漕ぐ私。
なんだか寂しくて惨めな気分になる。
予知夢を確かめたからって私にできることは何もない。
婆ちゃんが生きてれば、相談できるんだけど。
婆ちゃん以外に話せる人なんていない。
両親だって信じないんだから当たり前だ。
きっとこの先も、何もかも打ち明けられるような人なんて現れないと思う。
妙な力を持った凶暴女なんか嫌だもんね。
ましてや好きになってくれる人なんてありえない。
私はずっと一人だ。
中年になっても、婆さんになっても……。
ちょっと泣けた。
紅葉丘高校では、もうすぐ球技大会が開催される。
一日の終わりのホームルームの時間。
誰が、どの種目に出るか決めることになった。
女子はソフトボール、バレー。
男子はバスケット、サッカー。
みんな必ずどれか一つには出なきゃならない。
私はクラス活動に期待されてないから、人数の足りないところにもぐり込めば良い。
昨日、多摩川から帰ったあとも、予知夢のことが頭から離れなかった。
考えすぎて眠れなかったんで、今日は寝不足。
授業時間中、何度か眠りかけたけど、一つ目の化物の姿が浮かんで飛び起きる。
ネットで検索かけたし、昼休みに図書館で調べもした。
たけど、あんな生物出てこない。
あれは一体何?
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