玉勝間

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「命連寺さんはスポーツ万能でしょ?」  大あくびをしてる最中に声を掛けられ固まる。 「へっ?」  クラス委員長の日浦紫苑(しおん)が面白そうに私を見ていた。  ロングの黒髪。  パーツの整った顔。  発育の良い胸。  成績優秀。  優等生ここにあり的な彼女だ。 「あなたとおなちゅうの友達から聞いたんだけど」 「人より多少動けるってだけだよ」  クラス中の視線が私に突き刺さる。  何してくれちゃってるんだよ、委員長。  放って置いて欲しいのに。 「命連寺さん、勝負ごとについてどう思う」 「えっ、何?」  「勝ち負けについて命連寺さんの考えを聞きたいの。全力を尽くしたなら負けても良い? それともやるからには勝ちを取りに行く?」  突拍子もないな、この子。  日浦の瞳は私に挑戦するように輝いてる。  そんな顔されちゃあ、婆ちゃん譲りのツッパリ魂が黙ってられない。 「もちろん、やるからには勝つ。それが勝負」  教室が、どよめいた。  隅で聞いていた担任の佐原郁美(いくみ)も目を丸くしてる。  もうすぐ産休に入る佐原は、ふくらんだお腹を大事そうに抱えていた。  滅多に見れない珍獣が出たぞ、みたいに驚くんじゃねぇよ。  日浦が、にやりとする。 「じゃあ、命連寺さん、二つとも登録ね」  私は驚いて立ち上がる。 「――な、何言ってんの!」 「だってうちのクラス、スポーツ得意な人少ないんだもん」  とぼけた感じで日浦が言う。 「だからって」 「さっきの言葉は嘘なの? 見栄を張っただけ?」 「違う!」 「じゃ、決まりね。うちのクラスが勝つにはあなたの力が必要なの。お願い」  私に向かって手を合わせる日浦。  完全に、はめられた。  こういう女、苦手だわ。  私は机の脚を蹴飛ばし、乱暴に腰を下ろした。  放課後に各種目のミーティングやるって話だったけど、すかさずばっくれた。  自転車置き場に向かって歩いていると、いきなり肩をつかまれる。 「――捕まえた」  振り返ると日浦だった。  走ってきたのか息が上がってる。  舌打ちして肩の手を振り払う。 「命連寺さん、ミーティング出てよ」  無視して歩く。  日浦は前に回り込み、行く手をふさいだ。   「あなたがいないとポジションとか決められないんだから」   
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