玉勝間

3/71
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
 男は犬の後ろに回り、首の辺りの皮膚を引っ張りあげる。  犬は愛らしい顔で男の手を嘗めようとする。  男はナイフで犬の皮膚に軽く傷をつけた。  首の皮から流れる血を指に取り、ネックレスのチャームにすり込む。  犬は、特に痛がるわけでもなく、愛想良く舌を垂らしてる。  ちょっと気分が悪くなる。  早く起きたかったけど、自分の思い通りにならないんだよね。  血まみれのネックレスを首に掛けた男は、犬から離れ、ホームレスの側にしゃがむ。  右手にはバタフライナイフが握られたままだ。  悪い予感がする。  そう、この夢は良いことを教えてくれたことなんて一度も無い。  悪いに決まってる。    男はナイフをホームレスの首にあてると線でも引くかのように動かした。  すっと入った切れ目から、どくどくと血が溢れ出して来る。  多分頚動脈ってやつがあるところだ。  ホームレスは、そんなことになっても目を覚まさない。  きっと薬でも盛られてるんだろな。    男は円の外に出た。  そして、溢れる血を見つめながら、祈るように顔の前で両手を組んだ。  首から血は流れてる。  犬は男を眺めてる。  三日月は照らしてる。  時間は流れてく。  私は全部見てる。     突然、ホームレスの身体がびくりと動いた。  眠っているはずのホームレスの口が、ゆっくりと開いてく。  リラックスしていたゴールデンレトリバーが急に立ち上がって、ホームレスにむかって吠えはじめた。  開いた口から何かが出てくる。  蛸の足のような灰白色の触手……。  触手は後から後から口の中から現れる。  ホームレスの身体は触手が現れる度に痙攣した。  ぬめぬめとした十本近い触手はホームレスの頬や顎に絡みついてる。  犬は今にも飛びかかるような勢いで吠え続けてる。  リードが繋いである杭が地面から抜けそうだ。  絡みついた触手は口の中から何かを引き上げようとしてた。  口が異常なくらい広がり、頬が裂けて血が飛び散った。  ホームレスの身体は弓なりになって、痙攣が激しさを増した。  触手の本体が口から出ようとしてるんだ。  もう嫌だ!   早く起きないと、あれ見ちゃうよ。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!