玉勝間

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 男は犬の後ろに回り、首の辺りの皮膚を引っ張りあげる。  犬は愛らしい顔で男の手を嘗めようとする。  男はナイフで犬の皮膚に軽く傷をつけた。  首の皮から流れる血を指に取り、ネックレスのチャームにすり込む。  犬は、特に痛がるわけでもなく、愛想良く舌を垂らしてる。  ちょっと気分が悪くなる。  早く起きたかったけど、自分の思い通りにならないんだよね。  血まみれのネックレスを首に掛けた男は、犬から離れ、ホームレスの側にしゃがむ。  右手にはバタフライナイフが握られたままだ。  悪い予感がする。  そう、この夢は良いことを教えてくれたことなんて一度も無い。  悪いに決まってる。    男はナイフをホームレスの首にあてると線でも引くかのように動かした。  すっと入った切れ目から、どくどくと血が溢れ出して来る。  多分頚動脈ってやつがあるところだ。  ホームレスは、そんなことになっても目を覚まさない。  きっと薬でも盛られてるんだろな。    男は円の外に出た。  そして、溢れる血を見つめながら、祈るように顔の前で両手を組んだ。  首から血は流れてる。  犬は男を眺めてる。  三日月は照らしてる。  時間は流れてく。  私は全部見てる。     突然、ホームレスの身体がびくりと動いた。  眠っているはずのホームレスの口が、ゆっくりと開いてく。  リラックスしていたゴールデンレトリバーが急に立ち上がって、ホームレスにむかって吠えはじめた。  開いた口から何かが出てくる。  蛸の足のような灰白色の触手……。  触手は後から後から口の中から現れる。  ホームレスの身体は触手が現れる度に痙攣した。  ぬめぬめとした十本近い触手はホームレスの頬や顎に絡みついてる。  犬は今にも飛びかかるような勢いで吠え続けてる。  リードが繋いである杭が地面から抜けそうだ。  絡みついた触手は口の中から何かを引き上げようとしてた。  口が異常なくらい広がり、頬が裂けて血が飛び散った。  ホームレスの身体は弓なりになって、痙攣が激しさを増した。  触手の本体が口から出ようとしてるんだ。  もう嫌だ!   早く起きないと、あれ見ちゃうよ。
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