0人が本棚に入れています
本棚に追加
脱衣所でパジャマと下着を脱いで洗濯機に投げ込む。
六月なのに、ちょっと寒い。
シャワーから出る熱めのお湯を腕にかけ、徐々に背中へ回す。
皮膚が、ちくちくするくらいの熱さが逆に気持ち良い。
ボディーソープで身体を洗った後、バスチェアに腰かけてシャンプーを手に取る。
鏡を見ると少年のような女の子が見返してる。
黒目がちの円らな瞳。
ふっくらとした小さめの唇。
ベリーショートの髪。
髪が短いと洗うとき、ほんと楽だ。
中学のときは肩までのミディアムだった。
お嬢様ぽくて男子にもモテまくった。
自慢じゃないけど、周りにある中学や高校の男子まで押しかけてくるありさまだ。
でもそれも中二までのこと。
クラス替えした中三は地獄だった。
クラスを仕切るセレブ気取りの馬鹿女に目をつけられた。
無視された後は、お決まりの暴力……。
ボロボロになって部屋に閉じこもった。
家から外に出ることができなくなってた。
頭皮を指でこすりながらシャンプーを泡立てる。
早起きしての朝シャン、いいね。
閉じこもっていた私を助けてくれたのは婆ちゃんだった。
埼玉県の熊谷市で一人暮らしをしていた婆ちゃんは、私のことを心配して府中市にある我が家にやってきた。
四十年以上前、婆ちゃんは関東で最強と言われたレディースの頭をはってた。
婆ちゃんの激熱な魂に触れた私はエナジー120%になった。
三ヶ月後、登校した私はセレブ馬鹿女とタイマンはって叩きのめした。
そっからの私は別の意味で目立つことになる。
虐めた奴らを片っ端からぶっ飛ばした。
私には婆ちゃん譲りの喧嘩の才能があったらしい。
そうして虐めは無くなった。
けど友達もいなくなった。
みんな私を怖がった。
高校の入学式を迎えようとしていたとき、突然婆ちゃんが死んだ。
心臓発作だった。
熊谷の自宅の縁側で倒れているのを近所の人が発見した。
私が立ち直ったのを見て、気が抜けたせいかもしれない。
自宅での葬式だったけど、千人以上の人達が来てくれた。
庭には桜の花が綺麗に咲いていた。
婆ちゃんは桜を見ながら天国に行ったんだと思う。
私は一週間泣き続けた。
そして長かった髪を耳が見えるくらいばっさりいった。
婆ちゃんの教えを守り抜く誓いとして……。
最初のコメントを投稿しよう!