玉勝間

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 玄関を出てガレージに入る。  相棒のママチャリが静かに待っていた。  私は颯爽と自転車にまたがり住宅街へ漕ぎ出す。  住宅街には徒歩でバス停に向かう通勤通学の人達が、ちらほらと見受けられる。  彼らを尻目に思い切り自転車を漕ぐ。  髪の間を過ぎていく朝の風。  頭を撫でられているみたいで気持ち良い。  私の通う高校は都立紅葉丘高校。  府中市の東端、多磨霊園の南側にある。  自宅のある天神町から自転車で二十分くらい。  五年前にできたばかりの新設校で、あんまり偏差値高くないけど、校舎とか新しいんで、わりと良いかも。  制服は紺のブレザー、臙脂色のスクールリボン、濃緑色のアーガイルのスカート、紺色のハイソックス。   スカート巻き上げて短くしてる子が多いけど私はやらない。  クラスは1のC。  教室は三階。  席は廊下側の一番後ろ。  相変わらず友達はいない。  みんな私の噂知ってるから怖がって近づいてこないんだ。  モーニングスター。  私は裏でそう呼ばれてる。  朝の星なんて綺麗な意味じゃない。  RPGでおなじみの武器の一つ。  棍棒の先に棘だらけの鉄球がついてるやつ。  私にはお似合いのあだ名かも。    一時限目から三時限目までは無難にこなした。  でも四時限目、数学。  テストが赤点。  追試を宣告された。  マジへこむわ。  おふくろが見たら発狂するだろう。  答え合わせも、いまいち理解できないまま授業が終わった。  廊下の窓から外を眺め、ため息をつく。  とにかく飯食って、復活しなきゃだわ。    四階にある食堂。  昼休みは、いつも生徒で一杯だ。  気合を入れるため奮発して一番高いヒレカツ定食の食券を買った。  五百五十円なり。  食堂のおばちゃんは学校で笑いかけてくれる唯一の人だ。 「何、今日良い事あったの?」  ヒレカツを見ておばちゃんが言う。 「その逆。数学赤点で追試」  おばちゃんは大笑いすると、ただでご飯を大盛りにしてくれた。  トレーを持ちながら席を探す。  一人って、こういうとき不利だ。  友達がいれば席取りしてくれるから。
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