玉勝間

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 ようやく食堂の隅に空いている席を見つけた。  ほっとして席につこうとしたら、斜め前に座ってる奴の顔が目に入った。  ロングの茶髪に縦巻きウェーブ。  一重のつり目。  大きめの口。  とりあえず美人。  でも見るだけで飯が不味くなる奴。  三年の倉科聖蘭(せいら)だ。  座るのをやめ、別の席を探す。  倉科は目ざとく私を見つけるとトレーに載ったヒレカツを見てあざ笑う。 「馬鹿は、よく食うよね」  無視して行こうとすると倉科が追い討ちをかける。 「ああいう下品な女がいるとうちの高校の評判下がるわ」  倉科は周りにいる取り巻きの女生徒達に同意を求める。  取り巻き達は大げさに同意の声を上げた。  嫌な夢を見て、赤点をとり、糞女に会うなんて……。  ついてない日だ。  入学してすぐ、倉科の彼氏の相田颯(はやて)が私に言い寄ってきた。  自称、紅葉丘のフィクサーなんだと。  雰囲気イケメンの俺様野郎。  よくみるとかなり鼻の穴が大きい。  馴れ馴れしく髪とか腕とかタッチしてくるんで股間を蹴飛ばしてやった。  相田は子犬みたいに鳴くと股間を押さえて倒れた。  それ以来、相田は私を避けてる。  だけど倉科の方が会うたびにつっかかってくるようになった。  お腹が悲鳴を上げる。  早く別の席を見つけないと餓死するよ。  早足で倉科から遠ざかる。 「なんだ、シカトか!」  立ち上がった倉科と取り巻き達は、怖い顔で追ってくる。  倉科先輩、一応美人なんだけど怖い顔はブサイク。  私の腕を後ろからつかんだ倉科は思い切り引っ張った。  ヒレカツ定食のお味噌汁がトレーにこぼれる。  さすがにキレたね。  五百五十円だぞ。  お腹も減ってたし。  近くのテーブルの上にトレーを置き、ゆっくりと振り返る。 「いい加減にしろよ」  ドスの利いた私の声に倉科と取り巻き達は一瞬ビビった顔になる。   周りにいた生徒達は食べるのやめ、私達をちら見した。  そしてすぐに逃げ始める。  賑やかだった食堂は静まり返り、全員の視線が私達に集まっていた。 「こっちが黙ってりゃ、調子こきやがって」  一応先輩なんで今まで見逃してきたけど、もうお終い。  倉科をにらみ付けた。 「てめぇが、目障りなんだよ」  倉科の声が上ずってる。  度胸もないくせに喧嘩を売るなんてほんとカスだ。
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