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「倉科先輩、私の噂知ってんでしょ」
「み、命連寺、私がビビるとでも……」
私は右拳で横のテーブルを思い切り叩いた。
弾けるような音がして天板が割れる。
テーブルはくの字型に曲がって床に倒れた。
あちこちから悲鳴が聞こえた。
「アバラ、二、三本いっとくかぁ」
私は微笑みながら言う。
顔を青くした取り巻きたちは、一人また一人と逃げ出して行く。
結局、倉科は見捨てられ、一人になった。
私は、うろたえる倉科の襟首を左手でつかみ、右拳を握り締めた。
「殴ったら、停学だから!」
倉科は今にも泣きそうな顔で怒鳴った。
「いいね、停学。追試なくなるかも」
顔の骨を折らないように手加減することだけは忘れない。
私の本気のパンチはトラックの車体に穴を開けるくらい威力があるから。
親父とおふくろに迷惑かけるけど、しょうがない。
停学上等、糞女粉砕。
倉科を殴ろうとした瞬間、私の頭の中に奇妙な映像が見えた。
――血の海の中に転がる倉科の死体。
喉のところが滅茶苦茶に引き裂かれ、中の肉が見えてる。
殴りかけた拳を下ろす。
そして、じっと倉科を見つめた。
闘争心はなくなってた。
「な、なんだよ」
殴らない私に倉科は怪訝な表情を見せる。
私は嫌々だったが口に出した。
「先輩、あんたのこと大嫌いだけど一応言っとくね。ここ二、三日は周りに気をつけたほうがいい。さもないと……死ぬよ」
倉科は一瞬目を見張った後、鼻で笑う。
「つまらないブラフかましてんじゃないよ」
私が殴らないとわかり、倉科の表情に余裕が戻ってきていた。
襟首の手を振り払った倉科は私に背を向ける。
「あんたこそ気をつけな。颯のツレにはカラーギャングもいるんだから」
倉科は言い捨てると食堂を出て行った。
トレーを手に取り、がら空きになったテーブルに座る。
食堂の中に少しずつ活気が戻ってくる。
ちゃんと注意はした。
あとは倉科自身の問題だ。
冷えてしまった味噌汁をすする。
今日は本当、なんて日だ。
立て続けにあんなものを見るなんて。
予知夢の方は高校に入ってからも何度か見た。
でも起きてるときの予知は久しぶりだった。
中学以来だと思う。
嫌なバイブスをびんびん感じる。
ひどいことにならなきゃいいけど。
ヒレカツにかぶりついた。
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