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マラソンというのは、人生に似ている。オギャアと赤ん坊で生まれて、老人になってポックリと死ぬまで間をスタートから、ゴールだとするなら、走りつづけることを目的とするマラソンはまさしく人生そのものだ。だけれど、老人になって死ぬまでにどれだけの人間が、そのゴールにたどり着けずに脱落し、死んでいくのだろうか。いや、老人になることがゴールではないのかもしれない、人それぞれにとってゴールは別にあるはずなのた。
そして、この私はもうすぐ、死ぬだろう。車に轢き逃げされて、血をドクドクと垂れ流してゴールもできず、皮肉にもマラソン大会の最中にだ。だから、人生がマラソンだなんて屁理屈を考えたのかもしれない。
別にマラソン大会に熱意を傾けたわけでもないし、友達とも一緒に優勝しようと話していたわけじゃない、適当に走って、順当な順位で終わって思い出話の片隅に埋もれてくれてよかったのだ。
青春だとか、熱血や情熱だなんて、私には似合わないから、適当にフラフラと走りながら、適当なゴールで終わる。それが私の人生であるべきなの、車に轢き逃げされる最後というやつは後悔が残っていて、なんだか、不思議で、曖昧な後味の悪さが残っていた。
意識が遠退き、そこで、もう最後で、目を閉じようとした矢先、ピシャと血だまりに足を踏み入れる奴がいた。青白い肌に落ちくぼんだ瞳の少年だ、一目で不気味な奴だなと思う、死にかけてなければ絶対に関わり合いならない人種だ。
「死ぬの?」
これまた、生気の欠片もない声で少年が言う。
「そうだ…………よ。なんか、文句ある?」
「ないよ。僕は君と出会ったばっかりだし、君が死のうが、どうなろうがどうでもいいってのが本音かな」
「そりゃあ、正直なことで」
「うん。そうなんだけど、もしも、一度だけ人生をやり直せるとしたらどうする?」
人生をやり直せる? なんて、胡散臭いことを言い出すんだろう。とうとう死にかけて幻聴でも聞くようになったか。はは、末期だな。
「できるんだったら、な。でも、別に構わないけどね。私の人生だなんて、なんの価値もないんだし。ここで終わるのも悪くないかなって思ってる」
「君の人生の価値がどうたらとか説けるわけじゃないけれど、人生ってのは君一人のものじゃないんだよ。そこんとこ、わかってる?」
「わかってないし、わかりたくもない。興味もない」
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