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死ぬとか。生きるとか。答えが出たとしてもなんの意味もないことなんて考えたくもなかったし、考える余裕もなかった。血は相変わらず流れ続けているし、色白少年は私を見下ろし続けている。これは走馬灯と似た現象なのかもしれない、死の間際、瀬戸際の一瞬は誰もがこんなことを考えるのかもしれない。
誰も知らないだけで、誰も覚えてないだけで、誰も話さないだけで、まぁ、その直後に死んでしまうのだからできないのだろうけれど、そんなくだらないことばかりを考えていると、色白少年は私の顔を覗き込んでいた。おいおい、近いなぁ。ひょっとしたらキスできるんじゃないかと至近距離で、
「じゃあ、君が死ぬ少し前まで時間を巻き戻してあげる 」
そんなことは頼んでいない。
「頼んでなくてもやってあげる。だって、君はやり残したことがあるからね」
やり残したこと? なんだっけと疑問を言う前に目の前が真っ暗になり、視界がブラックアウトーーーーそして、私は教室の机、自分の席に座っていた。唐突な出来事に理解がおいつかない。幸いだったのは驚いて立ち上がったりしなかったことだ。日付を確認するまえに、担任教師がマラソン大会の日時を告げる。あからさまに教室内にブーイングが流れるが担任教師は聞く耳を持たずに受け流す。 本当に時間が巻き戻ったらしい。正直、信じられない、仮にこれが夢だとしてもいっこうに構わない気分だった。このまま行けば私は同じように車に轢き逃げされて死ぬだろうし、それを回避したいとも思わなかったから、その直後、ゴンッと後頭部に衝撃が走った。
目の前がチカチカときらめき、女の馬鹿笑いが聞こえてくる。どうやら鞄がぶつかったらしい。一応、後頭部をけっこう強く打ってた気がするけれど、途端に死ぬことはなかったようで、それと同じようにこれが夢じゃなかったらしい。
女の馬鹿笑いが聞こえないうちに、背中に衝撃が走った。痛みと共に前につんのめりなりながら地面に手をつく。
「あっ、ごっめーん。あんたがそこにいるって気がつかなくてさぁ。ご、め、ん、ねーー」
ゴリゴリと背中を踏みにじりつつ、女が言う。私は女の足を振り払い、立ち上がる。
「……………………」
女と視線を合わせた。背中や頭は痛い。今までの私だったらどうしていただろう。でも、思い返すのも面倒だ。面倒だから、本当に面倒だから、カチカチとカッターナイフを取り出して、
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