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「くそっ、そういうことかよ!」
事態を把握して、俺は自販機に向かって飛び込んだ。
伝わるべき衝撃が体に伝わらない。
勢いよく蹴った足は直ぐにコンクリートに接触する。
場所はさっきと変わらない。建物の間の小さな細道だ。
道路に出ても空間を構成している配置などには一切変化がない。
ただし、同じ世界ではないことは一目瞭然だった。
決定的に世界の色合いが違っている。光と色を失い、古い写真と同じく全てがモノクロに塗り替えられている。
薄暮のような世界には人の姿がない。さらに言えば動く物が何一つ存在していない。
俺たちが『進む可能性があった』が『選択されず廃棄された』次元。
誰もいない『過放次元』と呼ばれている世界で心臓の音がやたらとうるさく響いた。
水原はここにいるのか?だとしたらそう遠くへは行けないはず……。
探し出す前に心配は杞憂に終った。
電柱に寄りかかり、座り込んだ制服姿が目の前にいたからだ。
「おい!大丈夫か?」
肩に触れると水原の体は力なく傾いた。幸いなことに呼吸は静かに行われている。
「息はあるな。いったい何がどうなって」
「あー、そこの君。彼女は寝てるんだからサ。あまり騒がしくしてもらっては困るな」
誰もいないはずの世界で男の声で言葉が遮られる。
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