02_回り出す歯車

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 近所の様子がそんな有り様なだけあり、静寂を破る声はよく響いた。  「ねぇねぇ。さっきからさぁ、俺らと遊ぼうって言ってんじゃんかさぁー」  聞こえて来たのはむさ苦しく、わざとらしい猫なで声だった。  ナンパか。この辺りでは珍しいな。話方からすると女を誘ってるってところか。  「だから、嫌だって言ってるじゃないですか。しつこいなぁ」  拒否する声は予想よりもずっと若かった。  ここは左右のどちらから来てもほぼ中央に位置する。ここまですれ違う人もほとんどいなかっただろうに。  よく引き返さずに来たもんだな、などとただ傍観してもいられなさそうだ。  「ったく、馬鹿じゃねーの」  誰も聞いていないのをいいことに、思わず本音が口をついた。  まったく、近所で女子暴行事件なんて冗談じゃないぞ。
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