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手の届かない彼女を、俺はひどく無気力な瞳で見つめていた。
俺と彼女のあいだには、壁があった。見えない壁だった。壊すことも乗り越えることもできない壁。そんな壁である。
ふれることのできない彼女を、俺はいつも壁越しに見つめた。毎日毎日。不思議と飽きることはなかった。
一方の彼女は行動的だった。壁を壊そうと何度も何度も壁を蹴ったり、またあるときは壁を乗り越えようと体を張りつけて登ろうとしたり……さまざまな手段を試みた。伝説となりうる所業の数々に俺はいちいち感動した。
「この壁はね、きっと神さまからのプレゼントだよ」
あるとき、彼女がこんな詩的な言葉を吐いた。ずいぶん疲れた口調だ。らしくない。実際、彼女の表情はなく、その身なりはボロボロだった。
「そんなことはない。神さまが、こんな残酷な仕打ちをするわけないじゃないか」
俺はかぶりを振り、彼女を鼓舞した。われながらひどく棒読みなセリフに内心苦笑する。
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