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――レイ。
名を呼ばれた女性は、自然と背中に汗が伝うのを感じた。
表情には出さなくても、これだけはどうしようもない。
「何のことでしょうか」
だから余計なことを言わず、とぼけるというのがレイがとった選択だった。
できる限り自然で、悟られぬよう、ちゃんとダーツの眼差しを見据える。
決してにらみ合いではない。
そして数秒後、ダーツが「フーッ」と息を吐いたのと同時に、レイの肩もだらんと下に下がった。
ギリギリにまで緊張して強張っていた肩の筋肉が一気に緩んだのだ。
「まあいい、だが忘れるなよレイ。俺とお前がどうしてここに存在しているか、常に心にとめておけ」
「はい……」
ダーツから、以降の返事はなかった。
それはもう用がないという合図。
レイは最後に再び頭を下げると、部屋を後にした。
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