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そんな俺を放置し、ソレは顔や首、腕を水で濯いでいく。
そして最後に結っていた髪に手をかけたと思えば、汗で湿っていたのか重い音たて解けた。
髢(カモジ)もなく、髪紐とは違う……輪のような何かで結われていたのは、長くそして烏を思わせる程黒く艶のある美しい髪。
頭を洗うかのように桶の水を被り、濡れ髪を丁寧に後ろに流す仕草に、慎みを持たないソレが女子には変わりないのだと認識した。
砂を鳴らし、板間が濡れるからと縁側に上がらなかった女……秋野は再度忠告しようとも肌を晒したまま、地を歩いていた。
確かに秋野の言うように髪から雫が垂れていたが、一段下とは言えまさか隣を歩くとは思いもしなかった。
……女は三歩後ろを歩くもの、だが先の世では違うというのか?
そのまま到着した副長の部屋の前、膝をおり声をかけ障子を開ければ、中にいる人間が増えていた。
地に立つ秋野の姿に一様に驚く彼らだが、秋野は秋野で別な事に驚いたらしい。
小さく濁った声を上げていた。
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