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ー1ー
浮いているか、沈んでいるか。そのどちらでもない浮遊感の中で目を覚ました。
細やかな粒子が煌めきながら、私は蒼色の世界に居た。
ただ、眺望に映る世界に私の姿は、果たして在るのか。
腕を伸ばす、首を傾ける。
人であるならさも自然な行為だが、雲を掴むような感覚しか無い。
果たして、私は、何だ。
時折、揺らぐ水面のようなものが唯一認識できる事象だ。
意識的にか、無意識的にか、瞬きをする度に小刻みに揺らいでいる。
ただ、揺らぎは遠退き始めている。
「迷い人の意識が落ちかかっている」
揺らぎ以外何もない世界に不明瞭な音が響いた。音が幾重にもハウリングしている。
「ええ、急がなくては」
次いで響いたのは、落ち着きのある優しい声。だが、声の主はどこか。
唯一認識できる水面に意識を向ける。
揺らめく水面が静かに収まり、私を見下ろす主の顔が見えた。
「説明している時間はありませんが、現在貴女が置かれている状況は貴女自身という生命体が消えかかっているということです。それを止めるために“ある処置”を施します。これから貴女に二つの世界をお見せします。そのどちらか、印象的なほうを直感でお選びくださいませ」
主の姿は揺らぐ水面に阻まれ、深い闇に覆われた。
満点の星空に浮かぶ満月。
月明かりに照らされた頬の白い黒髪の少年が何を思うのか空を見上げている。その表情はどこかよそよそしい。
世界が揺らぎ始め、星空は消えた。
次に映る世界は灰色に霞んだ空を跳躍する銀の少女だ。少女の足から伸びる影は悪魔のような姿を見せた。
「印象的なほうを選びなさい」
見えない主の声が世界に響く。
灰色の世界はいつの間にか蒼の世界に戻っていた。
しばらく、いや、直ぐに答えを出した。
満点の星空と少年を思い浮かべた。
「強い精神力をお持ちですね。では、貴方を群書“サヴァンの庭”へと導きます」
群……書?
見知らぬ単語に戸惑う暇もなく、私の世界は劇的に変化した。
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