1章 戸惑いと旅立ち

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 瞼の向こうの光が徐々に暗くなる。 そうっと目を開けると、私は宇宙から星を眺めているようで、徐々に星に近づいているようだった。  星の青々とした海や茶色い地表が確認できるほど近づいてくると、星から大小様々なシャボン玉が湧き出てきた。その玉の一つにはある場面が浮かび上がっていた。  街のあちこちで炎が舞い、逃げ惑う人々。  凍てつく冷気が吹き荒れる雪山に向かう人々。  亡骸を抱えた剣を携えた騎士風の男。  私を包みこむシャボン玉はいくつものシーンを見せる。まるで走馬灯だ。  プツッと視界が途切れた。シャボン玉は消え、私の体は星に吸い込まれるように落下していった。  空は満点の星。あのときの風景だ。  背中にごつごつした触感があった。身をよじって逃れようとしたものの、身体は重くて動かなかった。僅かに指が地面をなぞる程度だ。  そういえば、感覚がある。四肢は確認できていないが、脚の辺りも地面の触感が伝わってる。 「あれ? 違うものが出てきたな」  幼い子供の高めの声が聞こえた。砂利を踏む音が頭の左から聞こえてきて、足音は頭のすぐ横で立ち止まった。そうして、黒髪の少年の顔が現れた。  少年の瞳がひとしきり大きくなると、私から視線を外し、どこか遠くを見つめた。 「どちらも人間かな? 生きてますかー?」  どちらもとは? と、答えたい気分だったが口を開くといった単純な動作さえ気だるく感じた。  少年はにっこり微笑み、納得したように頷いた。 「おまじないをかけておこう――また、会えますように」  突然、視界が暗転して意識が遠退いていった。
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