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「私も参加したいけど……」
リンは長距離を歩いた反動で足をガクガクさせながら立ち上がると、杖を支えによろよろと歩き出す。
さすがに足手まといだろう、そう思った俺はリンの肩をぽんと叩き、「俺に任せろ」とカッコいい台詞を言ってしまった。
剣を引き抜き、師匠の、武器屋のオヤジの教えを思い出す。
『正体不明の敵と戦うときは観察しろ。観察して動きを見極めろ。そして、疑え。相手の動きがそれで全てだと思うな』
やるぜ。前回は引いてしまったが俺だって戦えるんだ。
ハリエットは既にワンプの後ろに回り、短刀を片手に攻めあぐねている。
化け物は九本もの脚を器用に動かし縦横無尽に移動する。攻撃を仕掛けるときは何本かの脚で体を支え、浮かせた脚で突く。これの繰り返しだ。
衛兵たちは剣や槍の切っ先で脚を打ち払うが一定の距離を保ったまま攻撃をしない。隊長の命令とは言え、先陣を切るものが不在なのは衛兵にとって心許ない。
俺が初撃を決めれば、隊長も部隊のメンツがあるから攻撃を仕掛けるか。……いや、そう単純なものではないか。
とにかく、隙を狙うことに集中しよう。まずは、足だ。動きを封じたい。
足下に落ちている小石を軽く蹴飛ばす。小石はちょうどワンプの前を
横切り、反対側へと転がっていく。その動きをワンプは捉え、首を傾けて止まった小石を追う。だが、それも一瞬。動きのないものには興味を示さない。しかし、その一瞬が重要だった。
俺は体勢を屈め、剣を握る腕を振り払う。刃の先が脚に食い込んだ瞬間、俺は後ろに下がる。
地面に張り付いた脚がぱたんと倒れる。見た目に反して、脚は結構固かった。伸縮自在の癖に硬さもあるとは思わなかった。
脚を一本失った程度でワンプの体勢は崩れない。残った脚でなに不自由なく動き回る。
「シュロロロロ」
ワンプが湯気のような息を吐き、奇妙な鳴き声を出す。首を持ち上げ、俺の方を見た途端。曲げていた脚を一気に伸ばし、宙を舞う。
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