1章 戸惑いと旅立ち

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 ハリエットは四つん這いになりながら馬車から顔を出した。そのとき俺と目が合って、彼女は口に人差し指を当てて黙っててとジェスチャーをした。  ばらすつもりはない。彼女にもそれなりの理由があるだろう。しかし、何を探しているのか教えてもらいたいところだ。 「うーん、ここにも無かったということは向こう側かなぁ?」  ハリエットは検問所の向こう側に見える森の奥を見つめて独り言を呟く。そして、俺の近くの衛兵たちの配置に目配せし、向こう側の検問所を見た。もしかして、こっそり向こう側に行くつもりか?  しかし、予想に反して、ハリエットは俺とリンへ近づいてきた。 「ねね、旅券がなくても国境を越える方法があるんだけど、知りたい?」  それは寝耳に水だ。しかし、そんな抜け道みたいな方法があるんだろうか。 「もしかして強引に衛兵を倒して検問所を突破とか?」  俺は苦笑いをしながら、ハリエットが衛兵をチラチラ見てた様子から 察してみる。しかし、彼女は目を見開いて「そんなわけないじゃん」と即座に否定した。 「スノーマンチップって知ってる? フレビス山脈の中腹に出る雪だるまを倒すと黒っぽい石みたいなのが手に入るんだけど、それがあれば国境を越える手段として使えるんだ」  淀みなく喋る彼女の顔は真摯だ。視線は決して泳ぐことなく、嘘をついているように見えない。それだけに何故俺達にそれを話す必要があるのかそれが分からない。 「実は、スノーマンが強くてぇ……」  なるほど、スノーマンを倒すのを手伝ってほしい。そういうことか。 「いいよ。雪だるまなんだから炎に弱そうだし、私でよければ手伝うよ」  リンは二つ返事で頷いた。それに倣って俺も助太刀することにした。 「ホント? 助かったぁ。じゃあ、さっそく行こう。こういうのは早いほうがいいからさ」  そうして俺たちは検問所から北へ向かって歩き出したのだった。
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