1章 戸惑いと旅立ち

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  ー5ー  レンツール共和国の北部を東西に走る山脈をフレビス山脈という。  麓のゼネラルロッツから頂上付近を見上げると雪が積もっていて、その頂上は分厚い雲に覆われて何も見えない。住民の話によると、頂上は永久氷壁と呼ばれる氷の層で覆われているそうだが、その付近は一体どうなっているのか誰も踏み入れたことはないようだ。  だが、標高が高くなるほど非常に寒いということは分かった。 「登るんならマントぐらいないとね」  ハリエットはゼネラルロッツで薄手のマントを購入し、早々と装着している。彼女が着ているような肌が露出した軽装備ならもっと分厚いコートのようなものが必要だと思うが、ハリエット曰く素早く動けるものじゃないと邪魔になると一蹴された。やはり盗賊に身をやつしている者は軽い身のこなしを重要視するのだろうか。 「盗賊じゃないって。ちょっと借りてるだけだよ」  それは借りるではなく、盗むではないだろうか。とはいっても、俺が知ってるお金の稼ぎかたは精々一日に160zel程度のものだ。美味い飯を食べたければ、切れ味の良い武器を扱いたければ、多少悪どいことをしなければ生きづらいのかもしれない。  そういえば、リンの姿が見えない。防具を見に行くと言ったっきりだ。  俺の記憶によると、身につけているものより良い品はこの村には無かったと思うのだが。 「おまたせ。見てみて、こんなん買っちゃった」  後ろから声を掛けられ、どんな姿になったのだろうと振り向いてみれば、教会を出たときと変わらぬ出で立ちであった。 「どこ見てるの!? 服じゃないよ。これよ!」  そう掲げたのは細い棒で、先から糸が垂れている。その糸の先には石がくくりつけてあり、リンが腕を掲げると石が左右に振られた。 「それは?」 「振り子よ振り子!」  振り子? なんだそりゃ? 「これを持って歩くと色々な物が見つかるらしいの。試しにやってみると……ほらほら、振り子が反応してる!」  振り子の石は重力に逆らった動きを見せ、糸が、ある方向にピンと突っ張った。その方角に向かってみると、確かに何かが落ちていた。  これは……ただの石のようだ。 「ほらぁ、これ持って山に登ったらきっとお宝がザックザクよ」  にわかには信じられない。こんなもので宝が手に入るなら誰も苦労しないというもの。
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