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「これがスノーマンチップ」
ハリエットの指先には雪の結晶のような形の黒いチップがある。コインのようなサイズで表面には模様が刻まれている。
なぜこんなものがモンスターの中に? それに雪山でどう使うというんだ?
「詮索はいいから。ほら、スノーマンがどんどん来たよぉ」
俺は自分のやることに疑問を持ちつつスノーマンを横凪ぎにしていく。しかし、刺しても斬っても切断面はすぐに凍りつき、全く意味がない。
結局俺は壁役になってリンに全てを任せてしまう形に収まった。
「ごめん、俺、何も役に立ってないよな?」
ため息混じりにそう呟くと彼女はぶんぶんと首を振り、輝かしいほどの笑顔で手のひらの三つのスノーマンチップを俺に見せる。目的の物は手に入った。そう思ったほうが吉かな。
「おお、よくぞ集めて下さいました。感謝感謝」
ハリエットは恭しくお辞儀をすると四つのスノーマンチップを握って、とある方向へ進み始めた。
「やっぱ寒いよねー。厚手のコートがほしいよ」
だから言わんこっちゃない。ハリエットは体を震わせ、唇を紫色に変えて雪を掻き分けながら進む。もはや膝が隠れてしまうほどの積雪だというのに、その軽装はどうかと思う。
それはリンにも言えることだ。意味のない振り子なんて買わずに防寒具でも買えば……って、あれ?
リンの体は紅い湯気のようなものが立ち上っていた。これは、アイスドレイク戦で見せたものなのか。
「ふふふ、ファイアフォース。体に魔力を通わせるようにして炎のイメージしたら全身がポカポカしちゃって」
ああ、俺も魔法使いになればよかったかな。なんだか選択を誤ったかもしれない。
ふと、ハリエットが立ち止まる。その視線の先には何日もかけて降り積もった雪の壁がある。 彼女はその前で仁王立ちして腕を組んで俺達を見つめる。
「ただの雪の壁に見えるでしょ。違うんだなぁこれが。ベルンへの抜け道、それはこれよ!」
ハリエットは振り向き様にスノーマンチップを壁に向かって投げつけた。すると、チップの周囲に雪がくっつき、あれよあれよという内に雪の壁が無くなっていった。壁が無くなったところにはうっすらと土が見え、道が続いているようだ。
「どう!」
得意気に立つハリエットの後ろでは四体のスノーマンが蠢く。さっきのチップが媒体だったようだ。
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