1章 戸惑いと旅立ち

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「というわけで後はよろしく」  ハリエットはサッと俺達の後ろに隠れると、どうぞ戦闘をと促してくる。仕方がない。また壁役に徹するか。  スノーマン部隊をすんなり倒し、再びチップが道に散らばった。ハリエットはもはや用済みと言わんばかりにチップを置き去りにして、開けた道へ向かう。俺は念のためチップをポケットに放り込み、彼女の後ろを追った。  しかし、ハリエットはすぐに立ち止まってしまう。その先に道らしいものはなく、急な崖しかない。 「あとはこの凍った坂を滑り降りるだけ。それがベルンへの抜け道ってわけ」  滑り降りる? 無茶を言うな。どうみても崖だ。滑り降りるというより落ちるだろう?  しかし、ハリエットは崖っぷちに腰を下ろして足をぷらぷらさせ始める。そして俺達に手を振ると、なんでもないことのように滑り降りた。  みるみるうちにハリエットの姿が小さくなる。凍った坂に寝そべるようにして摩擦する面積を増やし、うまく勢いを殺しているようだ。意外といけるのか? 「余裕余裕……え? キャー!」  遥か下から悲鳴が聞こえた気がする。いや、風の音かな。 「さて、リン。ここから飛び降りるかい?」 「んー、他の道を探す、かな」 「やっぱりそうだよな」  命の危険があるような危ない橋は渡らない。共通の認識で良かった。 「じゃあ、道がないかその辺を吹っ飛ばしてみるよ」  え? 何を言って……。 「エクスプロージョン!」  雪山に爆発音が響く。  当然衝撃波が起こり、それが山肌に伝わる。そして降り積もった古い雪の層と、さらにその上に積もった軽い雪の層との結合が崩れ、滑り落ちる。  雪崩だ。もちろん、巻き込まれる。  気がついたとき、俺は体を丸めて雪の中にいることに気づいた。咄嗟に頭をコートで覆ったが、そのお陰で窒息せずに済んだようだ。体の節々が痛いのは言うまでもないが、その程度で済んだことに内心ホッとした。  ちなみにリンは全身をびしょ濡れにして近くで横たわっている。  ファイアフォースを通して雪を全身に受けながら溶かし、また雪を受けては溶かしを繰り返した結果だ。  後から聞いた話だが、雪に負けないように体を魔力を通わせていたとのこと。しかし、最終的に魔力が切れて倒れてしまったようだ。  無茶をするやつだよ、まったく。
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