2章 ハリエットのお手伝い

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    ―1― (リン視点)  滑落した雪山の麓から歩くこと数時間。ようやく人里に戻ってきたと実感できた。  荷馬車が通った跡や伐採された木々を見れば一目瞭然だが、なんと言ってもベルン最北端の街、ボーレンスの象徴である白い石造りの建物が眼前に迫れば、それも頷ける。  ボーレンスは獣やモンスターに襲われぬよう石壁に囲まれ、歩道には石畳が敷かれていた。それに街の入口には衛兵が駐在して道行く人々を見守っている。どちらかと言えばレンツール共和国は自然に囲まれた田舎風であった。しかし、ベルンに入った途端に整った街並みを目にすると、いよいよ都に足を踏み入れたといえよう。 「リン、リン。キョロキョロしすぎだよ。田舎もんみたいに見えるだろ」  街の地図を探して辺りを見回していると背中越しに声が掛けられた。声の方へと振り向くと、カイトが明後日の方向を向きながら文句を言っていた。他人のふりのようだ。 (田舎もんって……。別にいいじゃない!)  カイトを睨み付けようと頭(かぶり)を振ったがそこに彼の姿はなく、既に近くの武器屋に向かって歩き疲れ始めていた。  カイトは路上に並べてある武器の数々を目を輝かせて眺めては、己の武器と見比べる。しかしで店を出ていくと、隣の防具屋に入っていった。  私はまずお目当ての黒猫商会を探した。長い旅になりそうだから衣食住は確保しなくちゃいけない。それなら街にいる間は依頼をこなしてお金稼ぎをしていたほうがいいと思う。  そんな想いを胸に黒猫商会の扉を叩く。それにしても黒猫商会は全国共通なのか、建物の外も内も受付にいる黒猫に至るまで全て同じだった。 「よく来たニャ。依頼はそこに貼り出してあるから好きなの選ぶんだニャ」 「街の清掃」 「臨時講師」 「指定討伐週間、対象スキュラ」 「配達」  現在4つの依頼が張り出されている。この中でこなしたことのある依頼は清掃と臨時講師だ。たぶん、他の街でもやることは変わらないのだろう。  気になるのは指定討伐週間だ。スキュラ、というモンスターを狩ればお金がもらえるのだろうか。 「あー、細かく言えばスキュラを倒した証拠があればいいニャ。見た目は蛇女らしいから蛇の尻尾でも持ち帰ればいいと思うニャ。ちなみに、報酬は3000zelニャ」 「3000zel!?」  あまりの金額の高さに思わず高い声が出てしまった。清掃が80zelのことを考えれば、破格の金額だ。
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