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「んー、なんて? いま聞こえなかった」
子狐魔淫は、美桜の胸に顔を埋めた。
そして肉球のついた手を押し付け、必死で美桜にしがみ付く。
『ずっと、私を、貴方の傍に置いてください』
自分に縋りつく子狐魔淫の様子は、どこか切羽詰り、まるでもう離れてしまうのはいやだと、全身で訴えているようだった。
「うん、一緒だよ」
美桜は、笑顔でそう答える。
子狐魔淫を安心させてあげたいと思ったのだ。
『もう、置いていかないでくださいね? ずっと……一緒ですからね』
魔淫の声は揺れていた。
それはまるで泣いているようで、美桜は首を傾げてしまう。
美桜は魔淫の大きな蒼い瞳を見つめ、ほわっと笑った。
「うん、置いていかないよ。今度こそ。もう、まいんを置いていったりはしないから」
美桜は特に深い意味もなく、そう呟いた。
その言葉は美桜の言葉のようで、そうではなかった。
美桜は気付いてはいない。
自分が呟いた言葉の不自然さ、その意味を。
――――今度こそ、一人にはしない。もう、ひとりぼっちにはしないから。
魔淫は美桜の胸に抱きしめられるまま、安心したようにゆっくりと瞳を閉じた。
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