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目に映る風景――――桃色に染まった山々、目の前には咲き乱れる桜の木々、風に運ばれ楽しげに舞う花弁。
そして、小川のせせらぎが耳にさわさわと響く。
人の足を拒むこの平原は、とても大好きな場所。
美桜自身行ったことはないが、美桜の魂が知っている土地だった。
そうだ。ここは懐かしい――――吉野の地。
桜の木々が風に吹かれるたび、はらはらと、沢山の花びらが空を舞う。
まるでピンク色をした雪のようだった。
柔らかい花弁が、肩、腕、足元へと、穏やかに降り積もる。美桜が大好きな桜。
そうだ、あれほどまでに桜に魅せられ郷愁を覚えた原因は、この場所にあったのだと美桜は思った。
(あたし、ずっとここに帰りたかったんだ)
視線を天に向ける。
きんと澄んだ空は、どこまでも清浄で綺麗な淡い青に彩られている。
肩に垂れた漆黒の長い髪が、ゆらゆらと風に嬲られ、桜の花びらと共に舞い上がった。
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