一ノ章 天狐・魔淫

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 彼の腰まである長い髪は、水面に映る月のように珍しい銀色で、時折柔らかな春風にふわりと流されながら、白皙の美貌を縁取っている。  くっきりとした二重瞼の双眸は、美桜を捉えて優しげに細まってゆく。  綺麗な卵形をした輪郭の中に、嫌味なく絶妙なバランスで収まるパーツ全て、目尻が少し垂れた碧眼も、スッと高い鼻梁も、口角の上がった唇も、どれをとっても言葉を失うほどに美しい。  さらに、2メートルはあるんじゃないかと現在150センチ弱の美桜はびっくり眼で長身の彼を仰ぎ見る。プロポーションもさながらギリシャ神話に出てくる美神のように逞しいのが、着物に隠されてはいるけれど、浮かび上がる身体の線で見て取れる。  優しい色をしたあめ玉みたいな碧眼が、美桜を見つめて嬉しそうに微笑んでいた。 (でも、なんかどっかで会った……ような?)  美桜は目の前の美青年に、なぜか胸が詰まるほどの懐かしさと慕わしさを感じて戸惑ってしまう。  会ったことなんてないはずなのに。  さすがにテストで毎回赤点常連な美桜でも、こんな美人さん一度見たら忘れない。それくらい印象的な青年だった。  やっぱりモデルさんかなにかで、雑誌やテレビで見たからこんな感情を抱くのかな? なんて美桜は首をひねった。  しかしこの美青年、容姿以外にもう一つ、違う意味で目を奪われるものがあった。  それはモデル並みの美貌なのに、奇妙キテレツなコスプレをしていたこと。
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