一ノ章 天狐・魔淫

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 紫紺の根で染め上げた渋い葡萄色(えびいろ)の着物を着こなし、男結びにした半幅帯は、渋めの着物に反し、黄色みを帯びたの梔色(くちなしいろ)で。  頭には、髪と同じ色味をした狐を連想させるふさふさな先の尖った耳と、尻には四本もの尻尾まで生えている。  しかも、尻尾はワッサワッサと、それぞれ違う方向に動いているのだ。  秋葉辺りで売ってそうな、コスプレマニア御用達・電池式尻尾なのだろうと美桜は予想する。  朝っぱらからコスプレな、ネコ耳?つけた美青年。  二度寝もできないほど、美桜はばっちりと目が覚めた。 「ああ、私の姿が見えているのですね……。美桜様、私は貴方が転生なさるのを、心待ちにしておりました」  そう言うと――ネコ耳美青年は、突然ポロリと涙を零したのだ。  美桜は青年の涙を見て、ギョッと仰け反った。 「な、なに? てんしょーって、ナニ? ってか、どちら様? ・・・なんであたしの名前知ってるの?」  おお、この外人さん流暢な日本語喋ってる! と驚きながらも、美桜は警戒心を解かない。  胡乱げな眼差しで、目の前の残念なコスプレ美青年を見上げた。
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