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「あ、美桜様――……」
背後で魔淫の呼びかけが耳に届いたが、全て無視。
(だいたいなんで朝っぱらから宗教勧誘? しかもあたし? 安倍晴明って確か……魔導師、だったっけ?)
魔導師、と言っている辺り、ゲームとの区別がついていない美桜である。
正しくは陰陽師と呼ばれ、平安時代、陰陽寮という呪術や占術を専門に扱う官職の一つであった。
朝廷に仕える陰陽師達は、今でいうところの公務員、と言った所だろうか。
また、晴明の出生に関しては、人間の父と、葛葉明神の化身である白狐との間に生まれたとされている、歴史上実在の人物である。
「あ、おはよう、美桜」
猛ダッシュをしていた美桜に声をかけたのは、近所に住む幼馴染、綾瀬(あやせ)道長(みちなが)だった。
「おはよっ! じゃっ、先行くね!」
挨拶もそこそこに、脱兎の如く立ち去ろうとする美桜の腕を、道長はグイッと掴んで引き止めた。
「何をそんなに急いでるの?」
長身な道長が、無表情に美桜を見下ろした。
鋭利な印象を与える、その一重瞼で切れ長の目が美桜を捉える。
道長は、表情の変化がほとんどない男なので、じっとして動かないと、まるで歴史博物館に展示してある蝋人形のように見える。
夜中の薄闇に一人佇む道長を見てしまうと、その後、完全に寝つきが悪くなるのだ。
ちなみに美桜は経験済み。
子供頃、道長の家に泊まりに行ったとき、深夜ひとり庭に佇む彼を見て、幽霊だと勘違いした美桜は、深夜にもかかわらず大絶叫を轟かせたことがある。
アレはさすがに恥ずかしかった・・・。
道長の両親が満面の笑みを浮かべながらその出来事を話す度、美桜は穴があったら入りたい気持ちに苛まれる。
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