438人が本棚に入れています
本棚に追加
「その様子、まるで何かから逃げてきたみたいだね」
すうっと道長の双眸が細められる。
「うん、なんか家の前に、猫耳つけた勧誘のお兄さんがいてたから、逃げてきた」
「は? 猫耳つけたお兄さん? なにそれ、撮影かなにか? ……でも、なにか変な気配がするね?」
道長の目が美桜の瞳を捉え、近づく。
白い陶器のように滑らかな肌が、美桜の視界を掠めた。
「な、なに? 道長、なにか気になることでも?」
ゾゾッとうなじの産毛がそそけ立つ。
一瞬の沈黙に、ごくりと喉が鳴った。
「……いや、今日は大丈夫だよ。いつも美桜は、浮遊霊を大勢引き連れているんだけれど、どうしてかな。今日は一体も憑いてないね?」
ちょっと変わった特技? を持つ道長は、美桜に纏いつく普段と違った気配を辿る。
「うわ、朝っぱらからホントやめて。怖いから。でも、今朝は肩こりとか頭痛はなかったかな。すっきり起きれた。・・・寝坊したけど」
えへへ、と美桜は晴れやかに笑う。
「肩こりや頭痛がないのも、浮遊霊が一体も憑いてないせいかな。美桜は霊的なものを惹きつけやすい体質だから。それこそ磁石のように」
感情を乗せない平坦な口調でそんな事を言う道長に、笑みを浮かべる美桜の顔がピキリと固まる。
最初のコメントを投稿しよう!