第28話 相変わらずな日常

3/9
前へ
/305ページ
次へ
 ※ 「――って、嫌やろ。あんなゲームじみた世界が天国やー言われても」  ベッド脇のパイプ椅子に腰掛けながらJがそう言ってきた。  その隣でピクニック気分の結衣とEが、ケーキ箱の中からケーキを取り出しつつきゃいきゃい騒いでいる。  って、俺の話聞いてねぇだろ。  結衣がうきるんと尋ねてくる。 「ねぇ、Kはどっち食べる? Eちゃんの手作りケーキだって」  Eがぴっと人差し指を立てて、 「甘い物が苦手なK君には特別に『タイカレーケーキ』と『インドカレーケーキ』なるものを作ってきました」  なぜカレーをケーキにした? あえてケーキにこだわった理由はなんなんだ? 見舞いの品が『カレーケーキ』って  Jが横からケーキ箱に手を突っ込む。 「よっしゃ。『タイカレーケーキ』に挑戦したる!」 「さすがJ! 男前!」  Eが手を組んで目をうるませる。 「感想、聞かせてくださいね」  俺はJへと視線を向ける。  なぁ、J。 「なんや?」  話戻すけど――さっき俺が言ったこと、Jはどう思う? 「死神の声、か。もしそれが事実やったとしたら、声掛けられてくるの怖なってくるな。もう車運転すんのやめようかな」 「えー。じゃぁ、あたしも携帯電話に触るのやめよう……」 「私も鏡見るのやめます……」  俺は両耳をふさいだ。  やめろ! みんなでノってくるなよ! 言い出した俺が悪かった! マジで夜が眠れなくなる! 「冗談や。そない言うたらMはどうするんや。電話に一切触れない生活なんてでけへんやんか。Eなんか鏡やで。鏡なんてなんぼ回避したって無理やろ」 「とくにKは睡眠でしょ? 睡眠回避とかあたし絶対無理」 「私も無理です。睡眠とぼぅーっとすることが私の全てですから」 「あえて俺らの日常生活に寄生してるってーのが向こうの手なのかもしれんな。俺も車無いと通勤でけへんところやし、仕事クビになったら何も食えんで死んでまう」  ……。  俺は耳からそっと手を退けた。  なぁ。回避する方法って、本当にあるのか?
/305ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加