終話 仄暗い闇の底から

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 二階はそんなに広いわけではない。  狭く短い回廊と三つの和洋部屋。  その内の一つが朝倉の部屋となっている。  俺と上田は再び足音を押し殺すようにしてゆっくりと歩き出す。  朝倉の居る部屋まで、ゆっくりと慎重に。  なるべく朝倉の機嫌を損ねないよう気遣って。  ようやく、俺と上田は朝倉の部屋の前に辿り着くことができた。  上田が引き腰で怯えるように、俺の背から顔を出してドアの向こうに居る朝倉へと小さな声で問いかける。 「あ、あああ朝倉……? いい今、な、何してる?」  俺は上田に振り向いて言う。  何してるじゃねぇだろ。 「だ、だってさ、話しかけると朝倉の奴、すげー勢いで怒るんだぜ?」  だからなんだよ。普通に話しかけろよ。 「いや、そんなこと言ったって……」  上田は再び俺の背に隠れた。  俺はドアへと向き直り、ノックをした後にドアの向こうに居る朝倉に声をかける。  出て来いよ、朝倉。ちょっと話しようぜ。  ……。  しばし待ってみたが、朝倉の返事は戻らなかった。  上田が声を震わせて俺に言ってくる。 「まま、ま、まさか、死んだ……とか?」  その言葉に俺は急いでドアノブに手をかけた。  しかし、いくらノブを回すがドアには鍵がかけられていて開かなかった。  俺は激しくドアを叩く。  朝倉、居るんだろ! 居るならここ開けろ!  叩けど喚けど朝倉の反応は無い。  俺は叩くのを止め、即座に行動を切り替えた。  体当たりしてドアを開けるつもりだったからだ。  勢いつけようとして、構えたその時―― 「うぜぇんだよ! 帰れ!」  ようやく朝倉の怒鳴り声がドアの向こうから返ってきた。  居る! 生きてる!  確信した俺は激しくドアを叩く。  朝倉! 俺だ! どうしたんだよ、おま── 「うるせー、勝手に入ってくんな! 帰れ!」  その後ドアの向こうから朝倉の嗚咽まじりに泣く声が聞こえてくる。  ……。  俺と上田は気まずく顔を見合わせた。  今はそっとしていた方がいいのかもしれない。  上田が無言で頷いてそれに同意する。  俺はドアから離れ、呟くように朝倉に言葉を残す。  わかった。ごめん。……明日来るからさ。またそん時に話そう。  言葉は返らなかった。  俺と上田はドアに背を向けて歩き出す。
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