終話 仄暗い闇の底から

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 ――瞬間!   嫌な気配を察して、俺はハッと隣を振り向いた。  いつの間にかすぐ傍に、無表情の朝倉がこちらを見て立っている。  俺は悲鳴を上げて腰を抜かし、その場に座り込んだ。  朝倉が無言で俺の体の上に跨り、馬乗りしてくる。  そして俺の胸服を荒く掴み上げるとゆっくりとその顔を近づけてきた。  朝倉に何かが取り憑いている。  それはすぐに分かった。  顔に生気はなく、まるで仄暗い闇の底から這い出てきた幽霊のような顔をしていた。  朝倉が俺に言う。  その声は別人のように暗く、翳りに満ちた声をしていた。 「ようこそ、クトゥルク──いや、コードネームK」  朝倉、じゃない……? 「残念だったな。お前の大事なオトモダチは今おねんね中だ」  だ、誰なんだ、お前……。なんで俺のこと  朝倉が片手の人差し指で自らのこめかみを示し、そこを軽くトントンと叩いてみせる。 「頭の中に聞こえてくる声。入れ替えてみる気はないか?」  な、なんのことだ……?  朝倉がさらに俺の胸倉を荒く掴んで絞め上げる。 「何とぼけたフリをしている? クトゥルク。これは提案じゃない、お前を脅しているんだ。お前がオレを守護者と認めれば、オレはお前の守護者になれる。  もう一度黒騎士に戻り、共にあの世界を制してみないか?   ――戦いが全ての、あの世界をよぉ」  黒騎士!? 「コイツはお前の大事な友達なんだろう? 大事な友達を救いたくはないのか? この取引に応じればお前はこの世界の大事なものを失わなくて済む。  さぁ言え、クトゥルク。――今すぐこのオレを守護者にすると」
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