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2022/05/08 16:24
俺は少年が言った名に聞き覚えがあった。
しかしすぐに内心で否定する。
いやいや、そんなまさか偶然だろう。
たとえどんなに聞き覚えある名前だろうとも、あっちのミリアは今アデルさんと一緒に白騎士たちと一緒にいるはずだし、精霊巫女なんてこの国では村代表で一人くらいはいるんじゃないのだろうか。
もしかしたら精霊巫女のことはみんなミリアと呼んでいるのかもしれない。
たしかに彼女と顔立ちは似てるところがあるけれど精霊巫女はみんなそんな顔立ちなのかもしれない。
少年が女の子──ミリアの手を引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。
しかし、それを周囲の大人たちが許すはずもなかった。
少年は大人たちの手によってミリアから引き離され、罵声とともに地面に押し倒される。
それでも少年は叫び続けた。
「オレはミリアを予言された運命から救いたいだけなんだ! シヴィラの思い通りになんてさせてたまるか!
なんで誰もオレの言葉を分かってくれないんだよ!
みんなシヴィラって奴に騙されているんだ!」
「いいかげんにして、アカギ!」
そう言ったのはミリアだった。
大人たちに守られながら涙をぽろぽろと流し、ミリアは少年──アカギを叱責する。
「私の運命は私自身で決めます!
たとえシヴィラからどんな予言を受けようとも私は私。
精霊巫女になることでこの先にどんな運命が定められていようとも、その運命を受け入れる覚悟は出来てます!」
……。
第三者として、俺はまるで演劇舞台でも見ているかのような気分でそれを静かに見守った。
祭りどころではなくなったようで、アカギはそのまま大人たちに連れて行かれて、ミリアは守られながら安全な場所へと連れて行かれる。
なんというか見ていて複雑というか、アカギという少年がちょっと可哀想に思えた。
広場の人だかりは閑散としていき、静かになったところで。
俺はリグさんへと視線を移す。
リグさんが残念そうにお手上げして俺に言う。
「ちょっと村が騒がしくなりそうだから、白騎士への出発同行の相談は明日にするといいわ。
きっとこの騒動で白騎士たちと話し合いがあるだろうし。
何よりシヴィラ様への暴言は許されないことだから」
え、あ……そうなんだ。
シヴィラ様、なんだな。
さらに複雑な事情を知らされて、俺は曖昧に返事をするしかなかった。
「一旦、騒ぎが収まるまでは私の家でゆっくりしていって。
折を見て、また白騎士たちに相談すればいいから」
うん、わかった。そうする。ありがとう。
礼を言って、俺はリグさんとともに広場から踵を返した。
そんな時だった!
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