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2022/05/08 15:15
『何かが変だ』
え?
リグさんの案内で村の中を歩いている時だった。
屋台でリグさんに買ってもらった鶏肉の味がする正体不明の肉を頬張りながらおっちゃんの問いかけに内心で答える。
何が変だっていうんだ? おっちゃん。
白騎士にもちゃんと用心してるよ。
『そうじゃない。リグって奴がお前にモノを買った時に支払った硬貨だ。
あの硬貨に刻まれていた国旗の紋様はたしかもう使われていなかったはず……。
なぜそんなものがこの村に通貨として出回っているんだ?』
知らないよ、そんなこと。
俺にどうしろっていうんだ?
『それに──』
……。
俺たちの横を一人の白騎士が黙々と通り過ぎていく。
『さっきの奴……まさかな』
あのさ、おっちゃん。
階位持っている白騎士以外に気を付ける人がいるなら先に行ってくれよ。
普通に通り過ぎていったじゃないか。
『いや、きっと似ているようで人違いだ。
そんなはずはないからな』
え、さっきの人はおっちゃんの知り合いか?
慌てて振り向くも、その白騎士の人は俺たちに気付かず向こうへと歩き続けていった。
リグさんが心配そうに俺に訊ねてくる。
「どうしたの? 知り合い?」
あ……あーいや全然。その、ち、ちらっと見ただけ。
俺は慌ててリグさんに説明する。
「すごく白騎士に警戒しているように見えるけど、何かあったの?」
ち、違うんだ。そんなんじゃなくて、その……あの、あれ、なんつーか、白騎士の人ってカッコイイよなって見ていただけで、別に、その、犯罪性のあるやましい事なんて、な、何も……うん。してない、はず……。
本当に俺、何もしていないのになんで指名手配犯みたいなことしなければならないんだろう。
こんなに無駄に焦ってウソついて、自分の存在を誤魔化して、まるでおっちゃんみたいだ。
『おい。なぜ俺を例えにあげた? 俺がそんな人間だと思っているのか、お前』
おっちゃんみたいな大人になっていくんだと想像したらなんだか心から泣きたくなった。
リグさんが俺の様子を気にして訊ねてくる。
「大丈夫?」
うん。平気。ちょっと未来の俺を想像して心が痛んだだけ。
頭の中で何やら文句を言っているおっちゃんをよそに、俺はリグさんと再び村の中を歩き出した。
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