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2022/05/08 17:04
◆
血濡れたステッキを片手に。
英国風の貴族紳士は、鼻歌混じりに機嫌よく砂漠を涼し気な顔で歩いていた。
その彼の周囲に幾つもの黒い魂が取り巻くように泳ぐ。
ふと。
そんな彼の背に声がかかる。
「……珍しいわね。あなたがこんな場所に現れるなんて」
少女の声だった。
貴族紳士は足を止めて振り返る。
程よく距離を置いたところに二人の従者を引き連れて。
漆黒のドレス姿の隻眼の少女が物静かに佇んでいた。
彼女を目にして。
貴族紳士は穏やかな笑みを浮かべてシルクハットを取り、軽く会釈する。
「これはこれは。ご機嫌麗しく黒王。
なんともお久しい」
「クトゥルク関連以外であなたが動くことはないはずなのに、これはどういうことかしら?」
シルクハットを被り直して。
貴族紳士は意味深に微笑する。
「ただの散歩ですよ。
面白いものを見つけたのでちょっと悪戯をしてみただけです」
「そう……。ただの悪戯で済んでいるようには見えないけれど」
と、貴族紳士の血濡れたステッキへと少女──フィーリアが目を向ける。
隠しもせず。
貴族紳士はフィーリアに告げる。
「それにしても。
その仮染められし擬人姿、綺麗なあなたにとても良くお似合いですよ。
──十四年前、クトゥルク様に無様に負けて殺されたとは思えないほどに」
瞬間!
フィーリアの後ろにいた二人の従者が武器を抜く。
それをフィーリアが手で制して止めた。
射殺すほども鋭い目つきで貴族紳士を睨みつけ、
「言葉に気を付けなさい。
誰に向かって物を言っているつもり?」
悪びれる様子もなく、貴族紳士は血濡れたステッキを一振りして血を払い、その先をトンと軽くに砂地に付けた。
「これは失礼、黒き姫君よ。何分、今は気分が良くて」
「……」
フィーリアが二人の従者に手を払って命じた。
従者が武器を収める。
「気分が良いついでに一つだけ、教えておいてあげる。
神は死んだわ。殺されたのよ。
聖戦を最後まで共に生き抜いた、たった一人の裏切者の仲間の手によってね」
「……」
驚くわけでもなく。
貴族紳士は顔色一つ変えずに受け流す。
「それを知らないとでも? フィーリア」
無駄を悟るように。
フィーリアが二人の従者を連れて無言で歩き出す。
そしてすれ違い際に、言葉を残す。
「全てを知っていて見殺すなんて、何か裏がありそうね」
貴族紳士はフッと鼻で笑う。
「いいえ、ただの運命論ですよ。
この世界がシヴィラの予言に従っただけの話です」
その言葉にフィーリアが微笑する。
「あなたのその運命論とやら、キライじゃないわ。
さようなら、元クトゥルクの守護者──聖天使ミラン。
次は"運命の日"にもう一度会いたいものね」
「……」
答えず。
貴族紳士は爽やかな笑顔でシルクハットをちょいと掲げて、フィーリアを見送った。
2022/05/08 17:51
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迷宮遺跡の神聖巫女【上】・終
UO版 2017/05/14 18:20 - 2022/05/08 17:51
N版 2017/05/13 09:15 - 2017/12/03 18:01
原版 2013/10/07 13:07 - 2013/11/22 20:32
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