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「アイシャ、僕は……
大国セルエリアの第一王子でもなく、
ディアーナ教の大司教でもなく――
ただ一人の男として君を護りたい」
小箱から取り出された淡い蒼色の宝石がラサの手の中できらりと光を放った。
「セルエリアに……家を買ったんだ。
これからは懺悔室に通わなくてもいい。
僕が……僕がアイシャがいてくれる家に帰ってくるから……!」
緩められたインディゴブルーの瞳がゆらゆらと揺れる。頬に射す赤色がそのままそっくりアイシャに伝った。
感激で震える手付きで口元を覆うアイシャのあやめ色の瞳がキラキラとした涙でにじむ。
四角い間仕切り窓からそっと手が伸び、アイシャの左手を拐う。
ひんやりと冷たいラサの手の上に乗せられた甲にラサの唇が触れた。
「――結婚しよう、アイシャ。
僕と幸せになろう」
唇が離れ、真っ直ぐにアイシャを見つめてくる熱視線がアイシャの心を焦がす。
「――――は……はい…」
じんわり滲んだ涙がアイシャの頬を伝いおりた。
ブルーサファイアの指輪がアイシャの指におさまり、七色にきらりと輝きを放つ。
見計らったように近づく唇。
「アイシャ、愛してる」
「私もラサを……愛してる…」
小窓を挟み、二つの影がそっと重なった。
与えられた温かなぬくもりに、アイシャはふたたび溢れてきそうになる涙をこらえ、幸せいっぱいに微笑んだ。
【夢舞う夜蝶と仮面の聖職者】
完
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