第一蝶 懺悔室の乙女

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「どうして……助けてくれたの?」  身に受ける光とそよぐ風についついとうたた寝し始めそうになったアイシャはハッと顔を上げた。 「……ディアーナと領主のやり口が許せなかったから」 「………………。  相手は結婚するはずだったあの人よ。  言い値の税が高すぎたの。  払えなかった。  商売を営んでいる人だったから、悪い評判が立つことを怖れたのね。  だからこうして捨てられた」  婚前の行為は悪行だとされる。  これは、この領だからこその条例。 「ええっ、相手は結婚相手……!?  ならいいじゃない、どうしてそんな見せしめみたいに張り紙なんかする必要なんかないじゃないの!」 「無理よ、話が通じるような相手ではないわ。  恋の夢に躍り、愛の罪により墜ちる……私達女性の言い分などまるで聞いてはくれないわ。  ――冷酷な“仮面の聖職者”はね」 「仮面の、聖職者――――」  初夜権を司る者らは領主と上位の聖職者で構成されている。  聖職者らは顔を隠すために仮面を被るという話はアイシャも聞くところだった。 「泣こうが喚こうが赦してくれない。  任務のみを遂行する……」  恐怖を思い出したのだろう、肩を小刻みに震わせて、ドレスの生地を握り締める様は相当怯えているようだった。 「これから……私はここにいたら領主の玩具にされるわ。  だから……逃げるの、それしかない」 「教会には法に縛られず罪人を預かる施設があると聞いたことがあるわ。  それじゃだめなの?」  何気なく言葉にしてみたものの、教会も聖職者、ディアーナ教の一部に変わりない。 「教団の内部に仮面の聖職者がいると思うと……怖いの。  それに、信用の置ける聖職者なんて知らないわ。  うっうっうっ……」 「………………信用の置ける聖職者、ねぇ」  アイシャの頭にぼんやりと思い浮かぶ聖職者とは、カーテン越しで、姿すら見たこともないつまらない男の姿。 「ねえ明後日の晩、あたしと一緒に来て貰いたい場所があるの。  日数に猶予があるなら、一緒に付き合って貰えないかしら」  アイシャの言葉に、彼女はそばかすまみれの顔を上げて、薄紅色の髪の下から琥珀色の瞳でアイシャを見上げた。
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