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ますますわからない。
あのソフトボール大会に、コウちゃんはそんなにまで何を賭けていたのか?
「ねぇコウちゃん、なんでそんなにソフトボール大会やりたかったの?
そりゃああたしだって、すっごい楽しみにしてから、ショック大きかったけどさ。
何もコウちゃんまで……」
少しの沈黙の隙間を、穏やかに埋めていく雨音。
店先で濡れる紫陽花は、曇天にもくすむことなく、より鮮明な色彩を際立たせてる。
やがて聞こえたコウちゃんの声は、さっきよりも随分と小さかった。
「だって、あれで最後だったろ?
友梨と一緒に、野球の試合で盛り上がれるのって。
中学になってまで、一緒に野球して遊ぶ男女なんて、普通いないし」
あたしの手が止まった。
洗面台に顔をつけてる、コウちゃんの表情はわからない。
そしてコウちゃんから次に出たのは、
──きっとこの後頭部の裏は、もの凄い照れ顔──
そう容易にわかるような台詞だった。
「俺が野球部入ったのはさ、また友梨に、応援してもらいたかったから…ってのもあるんだ…
サッカー部ばかりじゃなくって、野球部の俺の活躍もさ…もっと見て欲しくて…」
あたしの胸のキャッチャーミットで、およそ150キロの豪速球が、
“ズバンッ!”
と音を立てた気がした。
ど、どういうことだろう?
今の言葉、なんだか意味ありげに聞こえてしまうのは、乙女ゲームのやりすぎだろうか……?
動揺があたしの手をどんどん速くしていく。
コウちゃんの頭が、摩擦熱で発火しそうなくらい激しいジョリジョリ音を放っている。
バクバクの心臓。
戸惑いながらも、聞き返さずにはおれないその真意。
コウちゃんは小さい頃から身近すぎて、あんまりそういう意識をしたことなかったけど…
顔だって、どちらかと言えばイケメン寄りだし…ハゲだけど。
性格だって、ぶっきらぼうだけど本当は優しいのを良く知ってるし…ハゲだけど。
「コウちゃん…それってつまり…
あたしのこと……」
緊張しながら聞いてみたら、
コウちゃんは少しの躊躇いを置き、
そして意を決したように、声を張り上げたのだった。
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