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「いってぇなぁ、このゴリラ女っ!
もうちょっと優しく洗えないのかよっ!」
──カチーン!──
舞い上がりかけてたあたしのハートは、一瞬にして奈落の底まで急降下。
そして奈落の底さえも突き破ったそれは、地中のマグマを一気に噴出させた。
「ゴリラ女って何だよっ!
せめてアイアイくらいに言えよっ!」
「うるせぇ、ゴリラみてぇな力でゴリゴリゴリゴリ洗うからゴリラ女っつったんだよっ!」
「なによ、あんたなんてハゲのくせにっ!」
「ハゲじゃねぇよ、ボウズ頭だよっ!」
「後頭部の右側に五円ハゲあるもんっ!
バーカ、ハーゲッ!」
「それ、幼稚園の時お前につけられた傷痕だよっ!
どうしてくれんだよ、一生消えねぇんだからなっ!」
「えっ!?
この五円ハゲって、あたしがコウちゃんの頭につけたの!?」
「そうだよっ!
お前が俺にバックドロップかけようとして……」
コウちゃんは最後まで言い切らず、なぜか途中で口を開けたまま止まってしまった。
そしてその後、
急に一変したように、大口を開けて笑い出したではないか。
「あはははははっ!
俺たちってさぁ、そう考えると、なんか凄い腐れ縁だよなぁ。
俺の頭から一生お前の痕跡が消えないなんて、なんか不思議な感じだなぁ」
──俺の頭から、一生お前の痕跡が消えない──
コウちゃんのその言葉を、ついじんわりと噛みしめてしまう。
コウちゃんは五円ハゲの事を言ったんだろうけど、聞く人が聞いたら、
“お前の事を一生忘れられない”
そんなニュアンスにも取れてしまうんじゃないだろうか。
そうだよね、コウちゃん。
あたしも多分、もしこの町を離れることがあっても、年をとってオバアチャンになっても、
コウちゃんの事は、ずっとずっと覚えてると思うよ。
だってあたしの、人生初の友達だもんね。
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