第1章

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. 鏡には、コウちゃんの頭をタオルでゴシゴシ拭くあたしが写っていた。 その自分の口元に、ほんのりと笑みが浮かんでるのに気づいた時、 あたしはコウちゃんに、とびきりの明るい声で言っていた。 「ねぇ、コウちゃん、明日の日曜日さぁ、ひさびさにキャッチボールしよっか?」 「明日? バァカ、天気予報じゃあ明日も雨だよ」 「そうなの? じゃあ、またてるてる坊主作る?」 「はぁ? 子供じゃあるまいし、今時そんな迷信なんて…」 「あはははははっ! あはははははぁーっ!」 いきなりお腹を抱えて笑い出したあたしを、コウちゃんは驚いて振り向いた。 わけがわからず、ポカンとするコウちゃんに、あたしは笑いながら言ってやったんだ。 「てるてる坊主、迷信じゃないよ。 だってあたし、 晴れたしっ!」 コウちゃんが外を見向き、怪訝な顔であたしに言う。 「何言ってんのおまえ? まだ雨降ってんじゃん… それに…てるてる坊主なんてどこもないじゃん」 「いいや、あたしは晴れたっ! てるてる坊主なら、バッチリ鏡に写ってるしっ! だから明日は、雨が降ろうが槍が降ろうが、キャッチボール決行だっ!」 さっぱり意味がわからないコウちゃんは、まるで“へのへのもへじ”みたいに素っ頓狂な顔。 丸坊主な頭。 そして、首から体をすっぽりと包み込んだ、真っ白なヘアーエプロン。 なんか、改めて気づいた。 あたしにはすぐ近くに、こんな愉快な幼なじみがいたんだって。 どんな時でも笑顔になれる、素敵な“てるてる坊主”がいてくれたんだって。 外は雨。 紫陽花の葉っぱの上で、楽しそうに弾んでいる雨粒。 ガラスに張り付いた水滴達が、駆けっこするみたいに我先にと下へ伝ってゆく。 てるてる坊主 てる坊主 明日も元気に しておくれ      ~了~
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